里の中心で愛を叫ぶ
コウ様
※未来捏造
※サクラの職場にオリキャラモブあり。
1.不自然な距離
「もー、サクラちゃんってば。他人を看る前に、自分の体調管理をしっかりしなきゃダメだってばよ」
熱の為にぼうっとしていた頭に、耳から入ってきた声が響く。
台詞は叱る内容、しかし口調は穏やかで愉しそうによく動く。
無機質でないそれは、暫く脳内を旋回しては少しずつ濾過され、ようやく意味を伴う内容として認識された。
「――――うっさいわね…。あんた、私の事よりも自分の心配しなさいよ…」
少し遅れて返すに至る。
すると相手はそれは予測済みとでも言うように、得意げに鼻を鳴らした。
「ふふん、残念だったなサクラちゃん。オレ、今日は泊まり込みで片づけるようにしてきたから、心配無用」
火影塔に泊まり込む忍は独身男が多いと聞く。
勿論仕事が立て込んでいるためであろうが、普段は屋外任務が多いため、夜は酒を交えてゆっくり語らおうという趣旨もあるらしい。
故に仕事の進みは緩慢なものだ。
残業代も何もなく、好きでしている事なのだろうから誰も何も文句はないのだが。
また男所帯の詰所に寝泊まりか…。
呆れて言い返す気力さえない。
熱により、実際に総ての気力が無い。
ベッドから、独り暮らしである我が家の殺風景な室内を見渡す。
そしてサクラの視線の先は、台所に立つ男の背を見つめた。
この部屋へ招き入れたのは、自分だ。
仕事の合間に「ただ見舞いに訪れただけ」と言っていたナルトは、果物などを手に下げていた。
――――寝てたところ悪かったな。これ、よかったら。
――――倒れたって聴いて、びっくりしてさ。慌てて飛んできたんだってばよ。
――――じゃ、オレまだ雑用あっから、お大事に。
ぽんぽんと飛び出す軽快な言葉が、だるくて重い身体に沁みた。
ぼうっと突っ立って、相槌も何も返さないこの愚鈍な身体は思いの外、機敏で。
気が付けば、背を向けた彼の手を取っていた。
蒼い瞳が驚いたように振り向く。
――――どうした…?
『…………』
――――サクラちゃん?
『…つくって。何かつくって』
――――え、あ、そりゃ、オレは構わないけど…。
上がっていいの?
その目が訴える。
『……わたし、病人なのよ?』
――――あ、まぁ、そうだけど。
質問を質問で返され、彼は戸惑っていた。
だが、どんなに困惑させようとも、不思議と目を逸らせる事が出来なかった。
――――お、おじゃまします。
そうして、この空間には2人になったのだった。
ナルトが持ってきた買い物袋の中には、果物の他にレトルトの粥などが入っていた。
この中身を見て、「作れ」も何もあったものではなかったなと悟る。
予想通り、彼は小鍋に湯を沸かし始めた。
ベットを背もたれにして床に座りながらそれを見る。
「サクラちゃんさぁ、ちゃんと休み取ってる?有給休暇消化してねぇだろ」
「………あんた、何で人の出勤チェックしてんのよ」
「だって、オレはそういう立場にも足突っ込んでるし」
サクラは目を逸らせる。
休む暇なんて無い。
休んだら、今の立場がどうなるかなんて、目に見えている。
仮にそれを告げれば、彼は無理やりにでも強制休暇を増やそうとするだろう。
サクラの立場も考慮し、例えば医療班全域にわたって荷重を減らす。
そうしてきっと、自分自身が皺寄せを全て背負い込むのだ。
そんなの、どうせ一緒の事だってばよ、と笑うのだろう。
いずれ里の未来を背負う者として。
昔馴染みで、一番の良き理解者という存在に甘んじている。
そんな権威を今、意図的に引き留めてしまった事に、少しの罪悪感を感じる。
もう、理由がなければ傍にいる事も不自然なのだから。
それでも。
数年前は、あれ程いつも傍で支え合っていたのだ。
その誼(よし)みに免じて、拒まれない内は少しだけ甘えたって…とも思う。
例えば、いつか大切な誰かが傍に出来るまで。
班がなくなってから、もう幾歳。
どんなに離れても、現場を指揮する側に崇められても。
部下や後輩を守る、期待の目を向けられる立場になっても。
時に、こうしてちゃんと叱ってくれる。
自分の事のように親身になってくれる。
無意識に強く思う。
あんたが居てよかった。
『―――あんたが、火影になったら』
数年前のあんな口だけの約束、もう忘れちゃったかな。
サクラは目を閉じた。
「出来たってばよ!」
その声に、条件反射で瞼を開いた。
広い背の主が振り向き、笑顔を浮かべていた。
それだけの事に、酷く安堵する。
きっと、体調が悪い所為。
( ――――― さ み し い )
最初に彼が帰ろうとした時に咄嗟に浮かび、引き留めてしまった事も、何かの間違い。
そう思おうとした。
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