つぼみの頃



つぼみの頃




(注)爛れた成人向けです。読み飛ばしても本筋が追えるようになっていますので、成年されていない方、あるいは苦手な方は読まないようにお願いします。



   十六.


 14日の夜、坂とは反対側の改札口で待ち合わせをして、車のヘッドライトが眩しい大通りを歩いた。指を絡める仕草はすっかり様になっていて、ほんのり身体を寄せると、ぐっと力強く腕ごと引かれる。飲み物を調達しようとコンビニに入り、避妊具が置かれている棚の前を通り過ぎた時、「持ってるから」と囁かれて、らしくもなく頬が紅潮した。ビールの自販機がぼうっと白く光っている酒屋を過ぎて裏路地に入ると、揺らいだ瞳で見つめられて、足を止める。肩を抱かれて、名残惜しげに唇を軽く食み、二人はさらに身体を摺り寄せて細道を歩いた。
 コンクリ造りの狭い階段を、二人でのぼる。カツカツ、とヒールの音が重なるたびに、部屋へと近づき、心臓の鼓動が徐々に早くなる。サクラはナルトの手を黙って引き、ナルトはサクラの手をいつもより強い力で重ね合わせた。扉を開けて、ナルトを中に招き入れる。
「狭くて、ごめんね」
「……そんなこと、ないって」
 ナルトが住んでいる寮の広さは、聞いている。ベッドと勉強机が部屋のほとんどを占めていて、ベッドの下に備え付けてある収納ケースに衣類を仕舞っているのだという。サクラの部屋だって、似たり寄ったりだった。女の一人住まいは物が多くて、さぞかし驚いたはず。どこに身を置いたらいいのか迷っているナルトに小さな座布団を勧めると、エアコンの電源を入れて、ビニール袋から取り出したファンタのペットボトルとブラックコーヒーの缶をちゃぶ台の上に置く。ナルトの向かいに座ると、古いエアコンのちゃちな起動音が部屋に響いた。
「明日、仕事?」
「うん。定時出社」
「早く起きないと、だな」
「……うん」
 時間がないのだと、ナルトはその会話で悟ったのだろう。ペットボトルを開けもせず、腰を持ち上げて、サクラの隣に胡坐をかいた。部屋中に充満しているしっとりとした雰囲気に身を任せて、ただただキスを繰り返す。角度を変え、髪をかき混ぜ、唇の表皮を舌がなぞるのだが、口内に入りそうで入らない。そのうちに薄い敷物が広がる床に押し倒される。まだ寒い室内はコートが手離せなくて、袖から出た手と唇を重ね合うことでしか、互いの体温を感じることはできなかった。身体のラインを確かめようとするナルトの手の感触すらわからない。
「……お風呂、入って、いい?」
「……ん」
 まだ触れていたい、とその目が雄弁に語っているが、逃げるつもりはない。この部屋に脱衣所なんてなくて、洗面台の真向かいに風呂場、その間の扉がトイレの入り口と、水場が極端に集中している造りだった。ただ、洗面台の横にぺらぺらのカーテンを引くことで、目隠しぐらいはできる。
 シャワーを浴びて身体を拭くと、バスタオルできっちりと身体を隠してから風呂場を出る。シャワー扉を開けたら、ジャージ姿のナルトが立っていた。お互いにぎょっとした顔で、わずかに後ずさりする。驚きに声も出ない。
「ち、ちがうってばよ!便所!ここ!」
 あたふたと指を差したのは、トイレの扉。サクラは、ああ、そう、ともごもご口の中で呟き、ぎこちない空気の中、その場を去ろうとする。
「……えーと、布団の中で、待ってます」
 お風呂に入りたいなら、どうぞ。言外にそんなニュアンスを込めたのだが、伝わったかどうか。一応、念を押しておこうと振り返ろうとしたその時、ナルトが背後から被さってきた。
「オレ、寮で風呂入ってから来た」
 ナルトの声が、いままでになく近い距離で響いた。こめかみに唇を押し付けられると、思わず目を瞑った。
「だから、このまま、いい?」
 返事の代わりに、裸の肩に恐々と置かれた手のひらに自分のそれを重ねる。耳のふちをなぞった唇は、頬をすべり、サクラを求めて下りてくる。肩に小さなキスが落ちた後、身体を軽々と掬われて、ベッドに運ばれた。




 一人用の狭い布団は、2月の底冷えする外気を吸っていて、タオル一枚では凍えてしまいそうだ。それを察したのか、あるいはすぐに身体を重ねたかったのか、ナルトはジャージのジッパーを乱暴に外し、服を脱いでいく。目の前に現れたのは、鍛え上げられた男の身体だった。肩、腕、胸板、腹筋。しっかりと筋肉をつけて引き締めた身体というのは、こんなにも美しいのか。どうしてだか直視できなくて、顔を横たえた。枕カバーが頬に触れる。
「えっと……苦手?」
 ナルトは、不安そうな声を出して、そーっと覆いかぶさってきた。触ろうか、どうしようか。太い指がサクラの視界をちらちら横切る。
「す、すごい身体、だな、と思って」
 ナルトはサクラの髪の生え際に指を這わせて、ごくりと喉を鳴らした。
「ダメって言われたら、めっちゃくちゃキツいんだけど……無理?」
 答え、早くちょうだい。ちらっとだけ視線を遣ると、ナルトは眉をへにゃりと曲げて、サクラを見下ろしている。苦手、というわけではない。こんな身体を見せられてしまうと、自分の身体が貧弱すぎて、泣きそうになるのだ。
「無理、じゃない」
 ごつごつとした手のひらで両頬を挟み、サクラの顔を真正面に向けると、今までの可愛いキスはどこへやら、ぬるっと口内に舌が入ってきた。どう受け止めればいいのか一瞬だけ迷ったが、ナルトの首に両腕を回して、本能の赴くまま動き続ける舌を唇で挟み、一旦沈める。吸って、舌先を遊ばせて、絡ませて。ナルトはすぐに愛し方を覚えた。ひとしきり戯れてから、首や鎖骨に顔を擦りつけて、バスタオルに手をかける。
 彼の目に、私の身体はどう映るのだろうか。そればかりが気になって、じっと注がれるナルトの視線から逃れる。バスタオルが剥がされると、夜の気配が布団の中にスッと入り込んだ。腕で目元を隠して、直肌を晒した。
「細っせぇ……」
 その手が、腰の曲線を撫でる。そんな弱い力で、ぬくもりが伝わるのだろうか。そのいじましさに泣きそうになっていると、やがて手のひらが乳房を包み、頼りない力で形を変えようとする。もう黙っていられなくて、顔を隠していた腕を外し、目だけをナルトに向ける。
「触って、いいから」
 その声は、どんな風に聞こえただろうか。ただのはしたない女だと思われたらどうしよう。一秒にも満たない瞬間が、永遠に思える。
「……止まんないかも。ごめん」
 ナルトはサクラの首筋に顔を埋めて、荒い息を吐きながらその身体をまさぐりはじめた。遠慮がちだった指の動きは、肌を知るほどにぎこちなさが取れて、柔らかさをもっと感じたいと、今は熱くざわめいている。乳房の先を吸われると、声がもれそうになり、慌てて口を覆った。絶対、引かれる。こんな声、聞かせられない。舌で転がしながら、片方の空いた手は、膨らみきっていない先端へ。泡を撫でるような手つきで触れられると、手の力もうまく入らなくなり、上擦った声が溢れ出る。その動きは、ダメ。
「……ン、ふっ、」
 布団が擦れ合う音に紛れて消えて欲しい。そう願えども、女の嬌声はどんな物音よりも強く響き、耳に残る。それに応えるように、舌の動きはさらに激しくなった。
「あ、はあ……」
 せめて声を最小限に抑えたい。胸元の金髪をかき混ぜてやり過ごそうとするのだが、かえってナルトを煽ってしまった。その手が内股を滑り、すべらかな肌触りを確かめるように撫で上げる。顎が自然と持ち上がり、背中は弓なりにしなる。右膝がサクラの両足を割り、硬い太股が秘部を掠めた。そこに指が辿り着くのも、時間の問題だろう。サクラの肌には、すでに屹立した竿が当たっていて、表皮を擦りつけるようにナルトの身体が動いている。好きにしてと思う一方、溺れさせないでとも思う。
「待ってて。ゴム、つける」
 瞳を覗き込まれると、濡れた目で見つめ返してしまった。誘われるようにナルトはサクラの唇を割り、身体の表皮をピタリと合わせた。きつく抱き合う。
「……意識、飛びそう」
 恍惚の息を吐くナルトに、私も、と言いたかった。あなたに抱かれるのが、こんなに幸福だと思わなかった。幻滅されるのが怖くて声を出せないなんて、どう思う?やっぱりあなたのことが、好きなのね。
 いつか伝えられるだろうか。ひとつ残らず、あますところなく。曝け出せば止まらなくなりそうで、今言えるのは、これだけだ。
「まだ、言ってなかった」
 ナルトと額をこつりと合わせる。
「好き。どんどん好きになってく」
「サクラちゃん、嬉しいけど、そんなん言われると止まんない……」
 まだゴムもしていないのに、内腿に竿が当たる。小刻みな動きは徐々に上へあがっていった。
「それは、ダメ」
「わかってんだ……」
 鈴口で割れ目をなぞられて、ビクリと身体が跳ね上がる。
「あッ!ちゃんと、してから」
 金髪をぐしゃぐしゃにかき乱した後、身体を捻って抵抗する。するとナルトはようやく身体を離し、布団から半身を出して、床に脱ぎ散らかした服を引き寄せた。




 ナルトの身体が沈んでいくと、二人とも息を詰めて、互いの肩や背中にしがみつく。異物感はなく、揺すられるたびに中が慣れていって、ぐちりと水音も混じるようになる。サクラは口元に手の甲を押しつけて、声を閉じ込めた。
 腰周りの筋肉はガッシリとしていて、打ちつける動きが速い。こんな感覚は、知らない。見たこともない自分の奥底を暴かれそうになって、必死に蓋をしようとするが、そんな抵抗をせせら笑うように力が奪われていく。感覚が、強すぎる。内壁を嬲り、最奥をひっきりなしに突かれて、これが本物の快楽なのだと認めざるをえなかった。手どころか身体の自由が利かないので、声を抑える手立てもなくなる。今はもう、サクラの手は両方ともナルトの手に絡め取られていて、逃げようと思っても逃げられない。
「あ、あ、あ、ン……ッ!」
 これ以上好きなように動かれたら、どうなるかわからない。かといって、今更止められるわけがないと知っている。転がり落ちる理性をなんとか押し止めるために、意識を違うところに向けようと、目をうっすらと開く。そこには、自分以上に追い詰められている男の顔があった。自分に溺れる姿に手を引かれるまま、抑えの利かない淫声に変わりかけるが、ナルトの方が先に切羽詰った声をあげた。
「ふっ……クッ、ダメだ、わりぃ、もうイク……!」
 びくりと波を打った後、中で竿が収縮する。ナルトは荒い息を吐いて、枕に顔を突っ伏した。肩が上下して、汗もかいているようだ。
「オレばっかり、ごめん」
「……そんなこと、ないよ」
 首筋に腕を回すと、ぎゅうっと身体を抱く。本心を伝えたいけれど、そういう言葉は、もっと後になってから口に出すべきだと思った。奔放な女だと誤解されてしまったら、彼はもう部屋に来てくれなくなる。
 二人は身体を重ねたまま、唇を啄ばみ合って、頬や額を合わせる。人肌によって温もりを帯びた布団の中、事後の甘い雰囲気に酔った。ナルトに寄り添って、束の間まどろんでいたサクラだが、その身体をまさぐる手つきは徐々に熱を帯び、ナルトの息遣いが少しずつ荒くなっていく。いつの間にかゴムは外されていて、腹に押し付けられると、さすがに気づいた。下をふっと見れば、硬く勃起している。
「……あの、ほんと、ごめん」
「謝るの、癖になってる」
 ナルトを安心させるように、するりとその頬を撫でる。
「でも、もうちょっとだけ、休ませてね」
 ちょっとお願いする口調だったのがいけなかったのか。ナルトの目が獣じみたものに変わる。
「無理。止まんない。サクラちゃん、すげえ可愛い。すげえ好き。だから、もっかい」
 首筋を甘噛みされて、身体が再び色づく。ナルトはサクラの腕をがっちりと拘束し、身体を捻ることすら許さなかった。その意思を退ける方法はないように思えた。
「すげえしたい。また中に入りたい。全然足りない」
「うん、それはいいから、ねえ、ン!」
「声、もっと聞きたい。どうしたらいい?」
「どうしたらって……」
 息を荒げて、ナルトはサクラを覗き込む。教えを乞う姿勢は、勉強会で見せる熱心さとはまったく質が違った。
「そんなの……言えるわけないじゃない」
 だったら、探り出すまで。手つきに明確な意志が宿り、あらゆる部位を触りながら、サクラの表情をちらちらと確かめる。当然、視線なんか受け止められなくて、目を瞑る。わずかながらに漏れ出る声を頼りに、その身体が再び解かれた。




2015/2/14




次ページ