(注)「あざやか」の二年半後、年の差パラレル 修業前より数段上達したチャクラコントロールで電柱を駆け上がり、最後の一歩をぴょんと弾ませて電柱の頭に到着すれば、記憶とひとつも違わない景色が眼下に広がった。父が四代目火影として守り、母が里の誉れとされている、木ノ葉隠れの里だ。 澄んだ空気を思い切り吸い込んで、里のすみずみまで聞こえるように、力の限りに叫ぶ。 「うずまきナルトが、帰ってきたぞー!」 一瞬、里中がざわっとしたのは、気のせいか。ひとつ向こうの大通りを歩く人々が振り返り、「あれ、ナルトじゃねーの?」と口を揃えている。目立つのが誰よりも好きなナルトは、その視線に満足して、うんうんと悦に入った。「恥ずかしい真似、するんじゃないってばね!」という小言と一緒に拳骨を食らわしにクシナがすっ飛んでくる可能性もあったが、里中の視線をひとりじめできるタイミングは、木ノ葉に到着したばかりの今しかなかった。 「……あれ?ほんとにナルト?」 昔イタズラした顔岩や、どこの国に行っても似た様式がなかった木ノ葉独特の家々を眺めていたナルトだったが、電柱の根元から聞こえてきた声に、あやうく落ちそうになる。念のためチャクラ吸着をしていて本当によかったと、胸をなでおろした。まさか、一番に声をかけてくれるなんて、思ってもみなかった。新調したばかりの忍装束の裾をピンと引っ張り、服に乱れがないかを確認する。 返事のかわりに電柱の頭を蹴飛ばすと、「颯爽」という表現を使いたくなるようなスピードを心がけて、すたっと地面に降り立った。 「うわ、ほんとにナルトだ!おっきくなったねぇ!身長、並ばれちゃったかな?あ、でもまだ私の方がちょっとだけ大きいかも」 ずっと焦がれていた初恋の人は、ナルトの頭らへんに手をかざすと、肩が触れ合うほどの距離で、背比べをはじめる。それは、久々に会う親戚の子供への接し方と同じで、二年半前とどこまでも変わらない。カッコよくなったね、の言葉がどうしても欲しかったのに、この分だとそんなことは微塵も思っていなさそうだ。普通なら拗ねたり悔しくなったりするはずなのだが、ナルトは今、それどころではなかった。 サクラちゃんが、目の前にいる!そんでもって、なんつーか、「可愛い」とは違くなってる!! 女の子、いや、女の人って、二年半会わないとこんなにも変わってしまうのか。容姿の変貌振りに、ナルトはすっかりのまれてしまった。 「忍服も、相変わらず目立つ色!中忍試験通っても、ベスト着ないつもり?あれを着るのが目標なんだって、よく聞くんだけどね。このオレンジジャージにベストは……うん、合わない。やめたほうがいい」 サクラはそう言うと、忍装束の生地を触ってその強度を確かめたり、ひらひらと流れる額あての布を「長すぎない?」と手で引っ張ったり。ナルトは、サクラにされるがままだ。久しぶりに声を聞くだけでも頭がパンクしそうなのに、手も足も顔も近くて、ついでになんともいえないイイ匂いが鼻をくすぐる。 ナルトは、知っていた。こういう女性を、「別嬪さん」と呼ぶのだ。 「火影さまに挨拶したの?」 その問いかけに、ぶんぶん、と顔を横に振って答える。 「だったら、早く行ってきなさい。きっと、待ってるよ」 まだ一言も発していないのに、ナルトの背中を軽くぽんと叩いて、サクラはさっさとどこかへ立ち去ろうとする。 「サ、サクラちゃん!」 ようやく喉から声が出た。手足が自由に動くことを確かめてから、地面を駆ける。振り返ったサクラが、ナルトの勢いに気圧されて、びくりと肩を震わせた。 「か、彼氏、できた!?」 第一声は、スマートさのかけらもない言葉だった。しかも久々の再会なのだから、もっともっと感動的な場面にしたかったのに、サクラが喜びそうな台詞なんてひとつも浮かばない。聞きたかったことを直球で口にはしてみたが、声が裏返っている。 ナルトは、二年半前と少しも変わってない。でも、それが自分だ。変わった部分はこれから存分に見せつけるとして、サクラには変わらない部分も受け止めて欲しい。 「……残念ながら、作る暇ないのよ、今」 サクラの口調から、修業に出る前に告げた言葉を覚えていてくれたのだと、ナルトはすぐにわかった。 「よ、よおっしゃあ!!!オレさ、オレさ、チョー強くなっちゃったから、すぐに中忍になれるってばよ!試験に合わせて帰ってきたんだ!だからさ、中忍になれたらデートしてくれる!?」 言いたいことを一気に捲くし立てた。興奮がまだ燻っていて、脈拍が速い。それなのに、答えを急かさずに、じっと待つ。これが二年半の修業の成果だ。サクラはナルトの我慢強さに驚いているのか、やや目を丸くしている。やがて、口元をふっと緩めて、小首を傾げた。 「今、じゃなくていいわけね?」 「いいってばよ!」 ナルトを見つめる視線の色が、少しだけ変わった気がする。親戚の子供から、自分を好いてくれている男の子へ。そこを脱してしまえば、勝機はある。自分がどれほど成長したかを中忍試験会場で見せれば、サクラは自分を見直すはずだ。背丈や忍服以外にも、きっと興味を持ってくれる。 「そんかし、中忍になったら、絶対」 いっぱしの男なんだと認めてもらえるよう、熱っぽい眼差しを注げば、サクラは目を逸らすことなく見つめ返してくれた。 「うん、まあ、それならいいでしょ」 「へへ、絶対だよ?」 「何よ、もう中忍になった気分でいるの?」 「だって、オレはオレの力を信じてるから!」 額あての布をかざして言い切れば、サクラは「変わんないわねー!」と声を出して笑った。オレは、里に戻ってきたんだな。そんな実感がようやくこみ上げてくる。 「よーし、そんじゃ火影さまんとこ、行ってくっかな!」 「うん、そうしなさい。きっと待ってるから」 ナルトはサクラに手を振って、火影の執務室にめがけて走り出す。 「ナルト!」 落し物でもしたかと立ち止まり、身の回りを確認してから、サクラを見る。 サクラは、雲ひとつない蒼一色の空のように、はれやかに笑っていた。 「おかえりなさい!」 「……ただいま!」 ※ナルトが帰郷した時の台詞は、とてもナルトらしかったので、アニメからお借りしました。 2015/6/10
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