(注)十二歳ナルトと十五歳春野さんの年の差パラレル うずまき一族は、九尾狐を御する力を生まれながらに持っている、稀有な血統だ。特に、自らの身体を器にして穢れを鎮める一族の当主は、大いなる力を持つ者として木ノ葉隠れの忍者から一目置かれる存在だった。現在の当主はうずまきクシナで、その夫は四代目火影。クシナが身ごもった際、これはとんでもないサラブレットが生まれるぞと皆が皆、口の端に噂をのぼらせ、否が応でも期待を高めていた。それが十二年前のこと。 さて、実際に生まれた子供とは。 「口寄せの術!」 里の中心部から離れた演習場のド真ん中。威勢の良い子供の声が響き渡り、地面には術式がバッと広がる。ぼふんと煙が巻き起こり、ムムムと子供が注視する先に現れたのは、小さな小さなガマ蛙だった。 「なんじゃ、またナルトか。遊びてーならオヤツくれっちゅーたじゃろが!」 「あーもう!チビイボに用はねーの!オレってば、オヤビンを呼び出してーの!」 地団駄を踏んで文句を言う子供、木ノ葉隠れきってのドベ忍者ことうずまきナルトに、子ガマは睨みを利かせる。 「すまん、ガマ吉。オヤジによろしく伝えてくれ」 口喧嘩に突入しかけたところを、妙木山に縁の深い自来也が取り成した。子蛙も自来也が言うのなら、としぶしぶ口を噤む。 「次は、ちゃーんとオヤツ用意しとけよ!」 「次なんかねーってばよ!」 「ったく、こいつを育てるのは、難儀だのぉ。ちと休憩」 「オレってば、まだ修業する!」 「……小遣いやるから、ラーメン食って来い」 自来也が懐から札をひらりと取り出せば、ナルトはパッと顔を輝かせてそれを受け取った。 「やっぱ一楽行ってくる!」 早朝からぶっ通しで修業をしているので、腹はぺこぺこだった。自来也からもらった金があれば、替え玉どころか、大好きなあの人と一緒に甘栗甘にだって行ける。顔はニヤけっぱなしだ。 「サクラちゃん、どこかな!」 ぴゅうっと里中を駆け回り、サクラの姿を探す。昨日の夜、サイとシンが揃って里にいることは確認していて、今は待機中だと言っていた。同じスリーマンセルのサクラだけ単独任務についているのは考えにくい。 サクラを探して里をうろちょろするのは、ナルトの日課とも言っていい。予定なんて受付に行ったところで教えてくれるわけがないので、足で探すのが基本だ。そして、なんたって今日は、絶対に面と向かって言っておきたいことがある。この先、自分を待っている旅のことを考えると、足取りは自然と弾んだ。 図書館の門をくぐり、きょろきょろと館内を探れば、サクラはすぐに見つかった。書棚の前で分厚い医学書を選んでいる。その細い指が、とある本の背表紙をスッと引く。 「サクラちゃん」 怒られないように、そーっと声を潜めて名前を呼ぶと、知的な瞳がナルトを見る。ドキリと胸が跳ねるのは、恋をしている証拠だった。サクラは、「どうしたの?」と小さく口を動かして、軽く屈む。ナルトは両手で筒を作って、サクラの耳にそれを寄せた。 「サクラちゃんに話があるんだってばよ。外に出ていい?」 サクラは頷くと、手にした本を書棚に戻した。揃って図書館を出て、中庭に出る。ナルトはくるんと身体を反転させて、サクラに向かって胸を張った。 「オレね、エロ仙人と修業の旅に出るんだってばよ!」 ニシシと笑いながらナルトが言えば、サクラは驚きに目を瞠る。三忍の弟子になるのだから、当たり前だ。綱手に師事しているサクラと肩を並べた気分になる。 「……いつから?」 「ガマオヤビンを自由に口寄せできるようになったら、出発するんだって。だから今、修業してんの!」 「それはまた、ハードル高いわねえ」 困ったように息を吐くサクラに、ちょっと唇を尖らせる。三つ違いだからって、そんなに子供扱いすることないのに。いつもいつも、それがナルトには不満だった。 「そんなの、すぐにクリアして修業に出るんだってばよ!だからさ、だからさ!」 前のめりになってしまうのをなんとか押しとどめて、身体が大きく見えるようにピンと背を伸ばす。そして、すうっと息を吸うと、用意していた決め台詞を口にした。 「オレってば絶対強くなるし、サクラちゃんより背ぇでっかくなるし、中忍試験だってあっちゅーまに突破するから、彼氏作らないでオレんこと待ってて!」 サクラはこれ以上なく目を丸くした後、庭木を見つめて、うーんと顎に手をあてる。「ダメ?」とすぐに聞きたいところをぐっと堪え、男は我慢と言い聞かせて返事を待つ。 「彼氏は作るかもだけど、強くなって帰ってくるのは、期待して待ってる」 今は、その言葉だけで十分だった。だって、絶対に振り向かせる自信がある。里に戻ってきたら、誰にも笑われない立派な「器」になってみせる。そうすれば、サクラだって自分と言う男を見直して、きっと惚れてしまうに違いない。 「がんばりなさいよ」 サクラが鮮やかに笑うので、ナルトの表情は、みるみるやる気に満ち溢れていく。そして自慢の額あてを手で翳して、「オウ!」と声を張り上げた。 2015/5/25
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