茨花



茨花




(注)かなり爛れた成人向けですので、成年されていない方、あるいは苦手な方は読まないようにお願いします。




 任務が終わった後、部下が友人の見舞いに行くというので、もしかしたらサクラに会えるかもしれないという淡い期待を胸に、ナルトもまた病院へと連れ立った。ナルトには九喇嘛という相棒がいて、ほとんど無限に近い数の影分身が作り出せる。そのおかげで部下を守れるのだが、九喇嘛がいなければ手も足もでない状況は、もちろんあった。部下を病院送りにさせなくて済むのは、九喇嘛のお陰だ。ありがとうな、と忍服の上から腹を擦すると、照れ屋の獣は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
 どこにいるかとサクラを探して病棟をぶらぶら歩いていると、廊下の向こうからシズネが歩いてくるのが見えた。ぶんぶんと手を振り、少しだけ早足になる。
「おーい、シズネのねーちゃん!久しぶりだってばよ!」
 そんなナルトの挨拶に、シズネは困った風に笑う。
「ねーちゃんはよしなさい。私だって、もういい年なんだから」
「いい年って、まだまだ若ぇーじゃん。ねーちゃんが禁止となると、呼び捨てにするしかねーんだけど」
「シズネさん、と呼びなさい」
「ウーン、慣れる自信がないってばよ」
「でしょうね」
 やけに諦めのが早いのは、綱手と共に旅をしていたからだ。綱手が「ここで一発取り返すぞ!」と決めたら、シズネは止める術を持たなかったらしい。そんなことばかり繰り返していたせいで、任務以外では妥協をすることが多い。
「あのさ、あのさ、今日ってサクラちゃん、病院にいる?」
 ナルトの問いかけに、シズネは顔を曇らせる。書類を抱えなおす手に、戸惑いを感じた。
「あの子、今日は早めに帰らせたのよ」
「えッ!病気か何か!?お見舞い行かなきゃ!」
「……これは、君だから言うけど、サクラが担当してる患者さんがね、この病院から国のリハビリ施設に移ったの。もちろん、サクラは全力で治療に当たったけど、忍者としては、もう……」
「それで……落ち込んでんの?」
「自分で全部背負っちゃうタイプだからね。ご家族のことを考えると、自分がもっと優秀だったら、なんて思い込んじゃうのよ。でも実際、あのケースは誰が担当になっても、復帰は無理だったと思うわ。綱手様は、言語機能が戻っただけでも奇跡に近いって。ねえ、ナルトくん」
 抱えた書類に目を落としていたシズネが、ふっと顔を上げてナルトを見る。その真剣さに気圧されて、ナルトは仰け反りそうになった。
「サクラを頼みます。気に掛けてあげて」
 サクラが全幅の信頼を寄せている姉弟子に、頼むと乞われた。もちろん、シズネの言葉がなくてもサクラの側にいるつもりだったが、改めて言われると、身が引き締まる思いだ。
「おう、任せてくれってばよ」
 ナルトはその場を離れると、病院の屋上に向かった。暗い階段を上がり、重い扉を開くと、焼くような西日が飛び込んできて目を眇める。いつか派手にぶっ壊した給水塔の上に飛び乗り、胡坐を組んで自然エネルギーを集めた。サクラは、どこだ。里には一般人も多いため、その存在がノイズのように探索を邪魔する。それでもナルトは、里全体に探知の網を張り、丁寧に拾い上げた。
「……いた」
 ナルトは目を開けて、仙人モードを解く。サクラがいるのは、第三演習場だった。感知できれば、こっちのもの。大戦の時に繋いだチャクラを手繰り寄せ、ナルトは疾風のごとく里を駆け抜けた。




 サクラは、林の中をあてどなく歩いていた。鳥の声や葉擦れの音が聞こえるぐらいで、人の気配はない。今はできれば人間以外の存在に触れていたかったので、この環境は好都合だった。こんな夕暮れに使用許可を求める輩はいないだろう。サクラは外界を遮断して、短い草をサンダルで踏みながら歩く。足元でさわさわと鳴る草の音に集中をして、ひたすら足を動かした。
 誰もいないはずだったのだが、気配をうっすらと残したナルトが、三歩ほど離れた場所に立っている。右に避けてなおも歩こうとするサクラだったが、黙って道を遮られた。
「ん」
 差し出された手に反応を返すことなく、ナルトの存在ごと無視した。まだ歩きたいのにと思いながら、視線の先に広がる雑木林を見つめる。そんなサクラの手をサッと掴んで、ナルトは演習場の出口に向かって歩き出した。
「メシは?」
 サクラは、ゆるゆると首を振る。食べ物を口に含んだところで、味なんかするはずがない。体力が持ちそうになかったら、兵糧丸を放り込めばいい。
「何、食べたい?」
 そう問いかけられたところで、食欲はない。何も思い浮かばない。無言を貫き通す。
「オレに任せたら、一楽になるよ」
「ヤダ」
「だったら、こないだ食った親子丼、持ち帰りにする?本屋の向かいの店」
 このままだと、飯処に強制連行されるだろう。食べ物を粗末にするのは嫌いだ。ラーメンよりも親子丼の方が喉に入るかもしれない。サクラは小さく頷いた。
「んじゃ、決まりな」
 サクラの歩幅に合わせて、ナルトもまた、ゆっくりと音を立てて草を踏む。二人の歩調が異なるため、サンダルが草を擦れる音が少しずれて、不規則に響く。一人ではないのだな、とサクラは思う。雪を踏むのとは違って、たまに点在する尖った芝は、鋭い音を鼓膜に残す。耳を欹てると、不思議と気が紛れるような気がした。きっと、肉体に残らない感覚を欲しているのだろう。
「今夜、ウチに泊まればいいよ」
 ナルトの言葉は、唐突だった。
「だってサクラちゃん、家に帰りたくないでしょ?」
「うん」
「野宿するつもりなら、オレが無理やり連れ帰るよ」
 できれば今日は、鬱蒼とした演習場の奥で寝泊りをしたい。しかし、サクラがどこをふらついていようが、ナルトの力を考えれば、いずれ見つかってしまう。
「だから、ウチに来ればいいってばよ」
 本当に人払いをしたいのならば、その手を振り払っている。受け入れたのは、ナルトの手だったからだ。この人の人生を支えようと、サクラは今なお必死で任務に挑んでいる。だから、拒めない。
「……うん」
「サクラちゃんはさ、たぶん今、誰とも会いたくないって思ってんだよね。まあ、わかるよ。オレもそうだったし」
 ナルトは、星が見えはじめている空に顔を向けて、独り言のように呟いた。師匠が戦死した時のことを思い出しているのだと、サクラにはすぐわかった。
「でもさ、誰とも会いたくないってサクラちゃんがいくら思っても、オレはサクラちゃんを一人にさせないよ。それだけは、我慢ならねえ。サクラちゃんがしんどい時は、どんな手を使ってでも見つけ出すし、連れ戻すよ」
 不意に足音が途切れて、ナルトの背中にぶつかりそうになる。サクラは足を止めて、肩のあたりをじっと見つめる。
「だからさ、何かあったら、ウチに来な?」
 ナルトは後ろを振り返ると、サクラは顔を俯けて、その表情を隠した。それでも、緩く繋いだだけの指先が、サクラの手の甲に触れる。治療が叶わず麻痺を残してしまった冷たい手の感触が、ナルトのぬくもりに上書きされていくのがわかった。
 二人は手を繋いだまま、里の中を歩いた。今のサクラは体面を気にすることができなかったし、ナルトはサクラがどこにも行かないようにと手をしっかり握っていた。約束通り、本屋の向かいにある蕎麦屋で持ち帰りの親子丼を二人分頼んでから、ナルトの家に向かった。
 食欲なんてあるわけがないと思っていたのだが、ダシの効いた汁と卵のおかげで、親子丼はするすると胃の中に納まってくれた。サクラ自身も驚いたが、それと同時にこんな時でもお腹が空くのかと、どこか虚しくなった。
「おし、全部食べたな!」
 空っぽのガラを見て、ナルトは嬉しそうに笑う。ガラをまとめる様子を見て、手伝おうとすると、いいから、とサクラを制した。そして、ゴミ箱にガラを捨てたら戻ってくるのかと思いきや、薬缶の中に水を入れて、ガス台にそれを置く。
「急須と茶葉、こないだ買ったんだ。これでオレんちもようやく人並みになったってばよ」
 火を入れると、ナルトは部屋を横切り、ベッド脇に積んである雑誌をいくつか抱えてサクラの向かいに立った。
「素っ気ないのばっかだけど、勘弁な」
 お茶を淹れている間、これを読んでいてくれ、という意図らしい。サクラは久しく目を通していなかった忍術雑誌を開き、文字を辿ることで平穏を覚えた。忍術雑誌とあって、内容も興味深い。思ったよりもずっと楽しめた。
 その後もナルトは至れり尽くせりだった。お茶を淹れた後、風呂を沸かしてサクラを入らせて、部屋着と真新しいタオルを用意し、ドライヤーで髪まで乾かしてくれた。寝支度を整えると、二人はベッドに入る。そうなるだろうな、と思ったとおり、ナルトはサクラの身体に触れた。




 サクラがどこか冷めた表情をしているのは、ナルトにもわかっていた。覇気がなく、顔色も悪い。それでも、ナルトはサクラを抱く。我侭、自己満足、施し。頭の中を覆うそれらの言葉を追い出し、部屋着の裾をたくし上げて、裸にする。顔を横たえたサクラは、壁でも床でもなく、どこでもない場所を見ていた。
 頬を挟み、顔の輪郭に沿ってキスをする。それで何が変わるわけでもない。されるがままになっているのは、男の家に泊まるのだから、という一種の流れを理解しているからだ。君は、何もわかっちゃいない。サクラの身体を開く最中も、ナルトはそんな思いを胸に秘めていた。
 幾度も重ねた身体は、ナルトの手が触れると、生理的な反応を示すようになる。どうすればサクラがその気になるのか、ナルトは知っていた。それを律儀に辿って、サクラの秘部に舌を這わせれば、その呼気はかすかに荒くなり、しっとりと濡れていく。
 ナルトは、入り口に亀頭を埋めて、焦らすように内壁を擦る。そうすると覚束ない動きで腰を揺らして、奥を穿たれると乱れた声を上げるのが常の姿だった。しかし、今日のサクラは頑として動かない。ナルトは亀頭の縁で内壁のある部分を丹念にしごいた。
「……ふっ、ン」
 ひっそりと漏れた息は、サクラの中で何かが変わったことを示していた。ナルトはさらに律動を速めようとする。その時、サクラがナルトの肩に手を添えて、その動きを止めた。
「お願い……今日は、やめて」
 潤んだ瞳で懇願されるが、ナルトはそれを振り払い、ひときわ強く内壁を抉った。
「あッ!んぅ……ね、お願い……。その代わり、好きにしていいから」
 声は震えて、目尻には涙さえ滲んでいる。罰を望む女の顔だった。
「何も考えるな」
「そんなの、無理。今日は、ダメなの」
 ゆるゆると首を振り、ナルトの胸板を押し返す力が強くなる。中を穿たれているため、頼りない仕草だが、それだけに心を打った。サクラが拒んでいるのは、ナルトの身体ではない。受け入れる準備はできているし、中に入っても抵抗はしなかった。ただ、快楽を享受することをひたすらに拒絶している。それはきっと、罪悪感だ。
「今、オレはサクラちゃんの中にいるよ」
 サクラは上気した頬をさらに赤らめて、ふいっと視線を逸らした。雰囲気を大事にするサクラが、こんなにも直接的な言葉を受け止めるはずがない。それでもナルトは、言葉を繋ぐ。
「濡れまくってる入り口を弄ってるうちに、中に呼び込まれた。サクラちゃんの中はあったかくて、オレを喜んで迎え入れてるってわかるのに、ぎゅうぎゅう締め付けてくる。ねえ、オレをどうしたい?」
「やめて」
 がむしゃらに腰を振るナルトの姿はない。先に進むことなく、卑猥な言葉を並べて、サクラを責め立てる。
「何も感じない?オレが中にいるのに?」
 半分まで挿入した竿を、ゆっくりゆっくり沈めていく。それでもまだ根元までは収まらない。サクラの顔が、揺れた。
「感じるよね?オレが入ってるの。今、半分以上埋まってるよ。この先、どうしようか」
 ほんの少し引き返すと、サクラは縋るような表情でナルトを見つめる。
「そう、オレを見て」
 ナルトはサクラの手を取り、自らの頬に添わせる。サクラの指が目元をなぞり、するりと下に移動する。指先でナルトの顔の輪郭を確かめて、唇の表皮を人差し指の腹で辿った。
「何も考えないで、オレだけを感じて。もっと奥に入るよ、いい?」
 サクラは頷かない。しかし、拒む気配もない。ナルトは亀頭の傘部分を内壁に擦りつけて、奥を穿った。サクラの動きに合わせてシーツが縒れて、乱れきった喘ぎ声がナルトの耳底に絡みつく。
「全部、入った。根元まで。わかる?」
 サクラの太ももを担ぎ上げて、さらにぐっと深く抉った。先ほどまでのゆったりとした動きから、腰を掴んでの大きな律動へと変わる。
「あン!あっ、あっ、やっ!」
「……いい?」
 息を乱しながら、ナルトは問いかける。自分の肉欲など、どうでもよかった。若さゆえ、先走って一人果ててしまう夜を何度も経験している。しかし今は、サクラを悦ばせられるのなら、ゴミ屑のような情欲なんて簡単にかなぐり捨てられる。
 サクラは声を寄越す代わりに、こくんと小さく頷いた。
「それでいいんだ。もっとよくなって」
 うっすらと開いた唇に絶頂の兆しを見出すと、ナルトはサクラの身体を抱きかかえて仰向けの格好になった。サクラはナルトの上に跨り、繋げた身体を持て余している。
「動いてみて?」
 戸惑うサクラに答えを差し出すかのように、その腰を掴んで、身体を揺する。感じるだろ?とサクラの太股を手のひらで撫でて、サクラの弱い部分を竿で優しく突いてみる。しなやかな肢体がビクリと跳ねて、サクラはそろそろと腰を動かした。身体を好きに使ってくれてかまわないと、ナルトは思う。忘我の域に達するまでナルトはサクラの身体を支え、より深く繋がれるようにとサクラの膝を持ち上げて、上下に揺する。
 悲鳴にも似た声は、サクラが繋がる感覚以外をすべて捨て去った証拠だった。額や頬にはりつく桃色の髪が、綺麗で、淫靡で。どうでもいいと投げたはずの情欲が、燃え盛りそうになる。
「……ね、このまま、」
「うん、いいよ」
 ナルトは上半身を持ち上げて、サクラと抱き合う。
「一人になろうとするな、オレがいる」
 サクラの身体を抱え込み、内壁に竿を捻じ込む。サクラはナルトの肩に軽く歯を立てて、昇りつめようとしていた。サクラの顔を乱暴に持ち上げて、唇に噛みつくようなキスをする。吐く息すら飲み込んで、さらにひくつきはじめる内壁を感じる。きっともう、果てる。
「はッ、ン、あっ、あっ、あン!ダメ、もう……!」
 ぐったりと倒れこむサクラの肢体を受け止める。恍惚の息が肩に掛かり、ぎゅっとサクラを抱きしめる。そのまま身体中にキスを浴びせていると、サクラはようやく力が入るようになったらしく、ナルトの胸板に手をあてて身体を離した。
「まだ、でしょ?」
「オレはいいんだ」
 ナルトがうっすら笑うと、サクラは覚えたての動きで腰を揺すった。まだうねっている内壁が竿を攻め立て、いともたやすく快楽に包まれる。
「……きて」
 淫奔な表情で誘われれば、断れるはずもない。サクラの身体を横たえて太股を担ぐと、一番深く入る体位で中を穿つ。二人は視線を絡ませたまま、荒々しい息を吐く。卑猥な言葉はなく、身体中を駆け巡る欲の火にすべてを委ねた。互いが絶頂に至るまでを、目を逸らすことなく瞳に焼き付ける。
 茨花から鋭い棘はひとつ残らず消え去った。ナルトの指で剥かれた柔らかな肌は今、愉悦に耽り、ナルトもまたその身体に溺れる。密やかな睦言は、夜の闇に沈んだ。