くじ



くじ




 久々の里外任務ということで、サクラは浮き立っていた。病院勤務が嫌いなわけでは決してないが、身体が鈍ってしまうんじゃないかと一抹の不安もあって、そろそろ任務をこなしたいと思っていたところだった。まさに、渡りに船。いつもの朝修業よりずっと念入りに身体を動かしてから、里の大門に向かう。小隊の面子はまだ知らされていなくて、誰が来るんだろうと、ちょっとワクワクする。
 最初に顔を出したのは、キバだった。隣にはもちろん赤丸も歩いている。腰を屈めて赤丸を手招きすると、ワオンと元気な声をあげて駆け寄ってきた。「今日も毛並みが整ってるね」と声をかけながら、身体を撫でる。
「おー、今日は当たりくじか」
 頭の上で、キバが不思議なことを言った。
「……何が?」
「あれ、知らねぇの?お前、一部で当たりくじって言われてんだよ。班編成の時なんか、時々聞くぞ」
「色々失礼じゃない?そんなこと言ったら、木ノ葉の医療忍者は当たりくじしかいないわよ。誰が言い出したのかしら」
「ナルトだよ」
「……あんのバカ」
 苦々しげに言い放つと、キバは笑いながら事の顛末に触れる。
「幸運の女神ってあるだろ。お前のことをさ、若い連中がそうやって言うわけ。ナルトの奴、それが何なのかわかんなくてよ。シカマルに聞いたら、あいつ、『アイスの当たりくじみたいなもんだ』ってテキトーこきやがって。それをいまだに信じこんでんの。バカだろー」
「当たりくじ、ねえ」
「そんな顔すんな。褒め言葉だって。おう、今日は珍しく同期組じゃねーの」
 キバの声に顔を持ち上げると、大門に向かって歩いてくるのは、いのとシノだった。珍しい組み合わせだな、と思いながら腰を持ち上げて、二人を迎えた。いのは任務依頼書に目を落として、概要の説明をはじめる。
「今回のセットは、医療忍者と探知担当だってさ。ツーマンセルで行動して、その後、合流地点で落ち合う予定。あんたさ、ガンガン地面ぶっ壊してむやみに地形変えないでよ?こないだ、地図班の人が泣きそうになってたから」
 サクラは、いのの指摘に反論ができない。いつだったかの任務で、敵全員を足止めしようと地面を割れば、立て続けに地すべりが起こって山の起伏が大幅に変わってしまったことがあった。地形把握は任務の肝で、等高線を計りなおす手間を皆にかけたはずだとサクラも反省している。
「あんたもわかってるだろうけどね。まあ、一応、釘は刺したから」
「それって、もしかして師匠から?」
「シズネさん。地図班から泣きつかれたって」
 姉弟子とはすれ違い状態になっているので、いのに伝言したのだろう。今から火影屋敷に飛び込んで謝り倒したくなる。
「医療忍術ってさ、チャクラ食うんだろ?無駄使いじゃねーの?」
「額にチャクラ集めてても、使い方がこれじゃあね」
 顔を見合わせて呆れた顔をするキバといのを、サクラはじろりと睨む。
「……お前ら、オレがいるのを忘れているな?しかもわからない話ばかり延々と……」
「あー!ごっめんねー!シノくんから大事な伝言がありますので、みんな心して聞くよーに!」
 キバとサクラがシノに目を移す、シノは満足げに頷いて、口を開いた。
「火影さまより伝言だ。当たりくじだからといって、気を抜かないように。言えばわかる、と念を押された。……どうした?」
 キバといのは、同時に吹き出した後、堪えきれないとばかりにゲラゲラと笑い出す。いのも知っていたか、と臍を噛む思いだ。
「フッツーに使われてやがんの!この分だと、ほとんどの奴に知れ渡ってんじゃねーの?有名人はつらいねー!」
「私も当たりくじって呼ばれたいわー。そうだ、シノには移動しながら説明するね!」
「しなくていいってば!」
「……ゆっくり聞かせてもらおうか」
「だから!知らなくてもいいって!」
「いや、同期のことは深く知っておかねばなるまい。なぜなら、オレたちは仲間だからだ」
「そうよねー、仲間のことは知っておかないとねー。ささ、移動するとしましょうか」
 ナルトの奴、シメる。帰ってきたら、絶対シメる。幸運の女神ならまだしも、当たりくじとは何事か。この手の言葉は、いったん浸透してしまうと、撤回するのが困難だとサクラもよく知っている。水際で食い止めるのは可能だろうか。このまま六代目に引き継がれるのだけは死んでも阻止したい。
 今できるのは、シノに口止めをすることだけだ。今後一切使わないように。そう言いくるめたところで、素直に聞くような人だったか。シノのことを知らなすぎるので、反応がまったく読めない。この任務、シノのことを探りながらこなすことにしよう。すすっとシノの隣に移動し、この先ずっと側を離れないように気をつけることにした。




※綱手さまの治世がもう少し続いてもいいのに…と思ったので、カカシは火影の引継ぎを徐々に進めているという設定です。




2015/2/21