情事



情事




(注)以前書いた「宿」の続きです。かなり爛れた成人向けですので、成年されていない方、あるいは苦手な方は読まないようにお願いします。




 帰りの宿泊地で報告書の作成に取り掛かるのは、サクラにとって珍しいことではなかった。記憶というものは、新しければ新しいほど的確に掘り出すことができる。頭の中にある情報を整理して文字に書き起こす作業は、ある程度書き方を覚えてしまえば誰でもスムーズにこなせるものだ。それこそアカデミー生にだって任せられるというのに、隣の部屋で休んでいるナルトときたら、この作業がいつまで経っても苦手で、どうしてできるようにならないのか、そっちの方がサクラにとっては不思議だった。術のバリエーションを増やすのに熱心なのはいいことだが、野営地の選択や報告書の書き方といった忍術以外の基礎を疎かにしているようなら、上忍への道は厳しい。
「……あれ?」
 一枚目がそろそろ埋まろうかという頃、地図の一部が欠けていることに気づいて、サクラは机周りを確認する。念のため荷物の中も覗いてみたが、地図は見当たらない。そういえば、地形把握が心もとなかったので、ナルトに預けっぱなしだった。
「どうしようかな」
 壁に向かって、独り言を零す。今、どうしても報告書を作らなければ、というわけではない。里に帰ってからだって十分間に合うし、明日ナルトから地図を受け取って、休憩がてら報告書をまとめるのも手だ。それでも、中途半端に放っておくのはなんとなく落ち着かない。机の上に手をついて、サクラは座椅子から腰を持ち上げた。足音をペタペタと鳴らして玄関まで歩き、スリッパを履いて部屋を出てると、部屋番号が間違っていないかを確認してから、隣室の扉を叩いた。




 思いもよらない来客だったらしく、扉を開けたナルトは少し呆けた顔をしていた。それも無理はない。任務の帰り道、二人で宿に泊まることはしばしばあるが、こうやって夜に部屋の扉をノックするのは、初めてのことだった。部屋の外に立ったまま、サクラは口を開く。
「ごめん、寝てた?」
「や、忍具の手入れしてた」
「そっか。あのね、今、部屋で報告書作ってたんだけど、あんたに地図預けっぱなしだったこと思い出しちゃって。あれがないと作れないのよ」
「あ、あれな。そか、オレが持ってたんだっけな……」
 閉じていく扉の隙間から、部屋の奥に引っ込んでいくナルトの後姿が見えた。バタンと重い音が響くと同時に、サクラは扉の脇に移動して壁に背中を預ける。そして、顎を少し持ち上げると、ふう、と短く息を吐いた。お互いに浴衣姿というのもあって、妙な雰囲気になるかもしれないとやや不安だったが、ナルトに限って言えばそんな心配は無用だったらしい。
 すぐに扉は再び開き、ナルトが顔を覗かせる。サクラは壁から背を離して、ナルトと向かい合った。その時、片手に持っている地図に目が移ってしまい、ナルトの表情や視線を確かめられなかったことを、この先サクラは後悔する。
「これ、地図」
 ありがと、と口にする隙はなかった。地図を受け取ろうと手を出せば、腕を強く引っ張られて、よろけた隙に部屋の中へと身体を運ばれた。玄関の上がり口を通り過ぎ、書を飾った白い壁に背中を押し付けられ、唇を塞がれる。自分の身に起きたことをサクラはすぐに理解するが、任務中は絶対に手を出さないという言いつけを忠実に守っていたナルトがまさかこんな真似をするなんて、と信じがたい気持ちだった。
 上唇を舌でなぞる動きを受け止めることなく、ナルトの胸に両手を当てて、身体を押し返す。顔を横に向ければ、ナルトはようやく口付けを止めた。
「……まだ、任務中でしょ」
「任務なら、終わったよ」
「終わってない」
「あの子は今頃、家で寝てるよ。だから終わった」
「そういう問題じゃ……ちょっと!」
 浴衣の帯をするりと解かれ、衿から差し込まれたナルトの指が、直肌に触れる。鎖骨をなぞる手つきに熱いざわめきを感じそうになるが、それを振り切って必死に抵抗した。
「やめて!」
 サクラは衿を合わせて、身体を隠す。ナルトの顔が耳元にすっと近づき、かすかに頬が触れ合った。衿を重ねる手に、ぎゅうっと力を込める。
「夜に男の部屋に来るってことの意味、わかってる?」
「ただ、地図を取りに来ただけなの」
 無理を言っているのは、サクラも承知の上だった。夜に浴衣姿で男の部屋を訪ねる。それはもう、手を出されても仕方がない。隙を見せてしまった自分の落ち度だ。それでも、ナルトなら話せばわかってくれると根拠のない信頼を寄せていた。
「今夜は帰らせて」
「いやだ」
「報告書も、まだ途中なの。戻らないと」
「今じゃなくても、できるよ」
 ナルトはサクラの頬を挟むと、唇を小さく啄ばんだ。乱暴を働きたくはないのだと、その口付けは告げていた。中へ進入しようとする舌を、唇を引き結ぶことで拒絶したが、浴衣の衿を合わせる手を解かれ、背中まで手のひらを差し込まれた。浴衣が肩からするりと落ち、二の腕を伝う。露になった胸の先端を、人差し指の腹が軽くつぶした。
「ん……」
 柔らかいのは一瞬だけで、その先端はすぐに硬く膨らみだし、やがて好きなように弄ばれる。手のひらで転がされると、きつく閉じていた唇が緩み、互いの舌が絡まった。
「ふっ、ん……」
 肩、背中、腕とサクラの身体をまさぐるナルトの手によって、左半身がむき出しになり、浴衣の裾が床にふさりと広がる。右肩からぶら下がる布地が、頼りなげにその半身を覆うだけだ。手に力が入らず、身体を押し返すことができない。つうっと舌先がサクラの顎を伝い、首筋を甘噛みした。
「ねえ、お願い……今は……あんっ!」
 胸元に移動した舌先がちろちろと先端を舐め、転がし、軽く歯を立てる。この所作に、サクラは弱かった。身体中が甘く痺れて、下着に指がかかるのを感じながらも、一切の抵抗が叶わない。足の間をナルトの膝が強引に割って入り、それと共に指が秘部に届いた。割れ目を二度三度と指で弄った後、両手で尻を撫でられながら、下着をおろされる。
「やだ……も、やめて」
 何度もやめてと口にしているのに、ナルトの動きは止まるどころか、どんどんとサクラの身体を開こうとする。下着を足首から引き抜いて右の太ももを肩に担ぐと、指でぐっと秘部を開き、舌で舐めあげる。サクラは身体を捻って逃げようとするが、ナルトがそれを許さない。蠢く舌をそのままに、埋もれた突起を人差し指と親指で探り出し、腹部分でしごきはじめた。
「あッ!いや、そんなの……んっ!」
 サクラはかぶりを振ると、扉の脇に据え付けてある靴箱に手を乗せて、力が抜けていく一方の身体を支えようとする。ナルトがサクラの身体をしっかりと抱えているので、倒れることはないのだが、片足だけではあまりにも心許ない。手をずらすと、受け取りに来た地図が無造作に置かれていて、小指に触れる。
 身体は、ほとんど篭絡されかかってた。どこもかしこもナルトを求めているのがわかる。こんなあられもない姿を晒しておきながら、なぜ拒み続けるのか、その理由を忘れてしまいそうになる。今は任務の帰り道で、里から式が飛んでくる可能性もあって、いつでも忍の顔に戻れるようにしなくちゃいけなくて。かろうじて理性の縁に掴まっているサクラだが、淫靡な水音を響かせながら秘部を嬲り続ける舌の動きによって、その指が一本ずつ外れていく。幾度となく重ね合った身体には、ナルトの形がしっかりと刻まれていて、少しでも変化があれば敏感に気づくほどだ。それだけ知り尽くしていても、ひとつに溶け合う感覚は魅惑的で、抗いがたい。報告書を、早く、任務だって、まだ。もはや言葉になりきれない欠片が頭を横切っていく。
「あっ、あっ、あっ!」
 こぼれる声はもう、女のそれだった。身体に力が入らず、立っていられない。そこまで追い込まれたところで、身体がふっと浮いた。背中に押し付けられた壁とナルトの両腕によって抱えられているのだと気づいた次の瞬間、竿の先端が秘部の入り口にあてがわれる。二人の息が溶け合い、ナルトの濡れぼそった視線がサクラに注がれる。お互いが少しでも動けば、竿がサクラの中へと導かれるだろう。これが最後通告だと、サクラは口を開く。
「里に戻ったら……好きにしていいから……今日は部屋に帰して」
 二人の視線が、至近距離で絡まる。ナルトは、口を噤んだまま動こうとしない。
「お願い、帰して」
 そう懇願すれば、ナルトはその顔をサクラの耳元に近づける。熱い息と共に吐き出された言葉に、サクラは息を呑んだ。
「帰るな、サクラ」
 サクラ、と彼は確かに言った。どれだけ互いを求め合っても呼ばれることのなかった名前を、今、ようやく口にした。待ち焦がれていた響きだった。
「な……んで、こんな時に」
「一緒に暮らそうって踏み込んできたのは、そっちの方だ。そんなことを言われた後に部屋に来られたら、帰せるわけないだろ」
 竿が割れ目に沿ってかすかに動くと、じゅくりと水音が響いた。
「本当に、イヤ?」
 サクラ、と愛しげにもう一度名前を呼ばれて、心が陥落する。サクラは両腕をナルトの首に回し、腰を揺らした。その動きに呼応するように、竿がぬるりと入る。中が波打っているのは、自分でもわかった。こんなにも正直な身体が、後ろめたく、いたたまれない。
「あ、あんっ……」
 突き上げる感覚は、今まで感じたことのないものだった。押し付けられた壁に背中が擦れるのも、気にならない。ナルトの髪をかき混ぜて、絶え間なく溢れ出る嬌声を必死で飲み込んだ。荒い息が密度濃く広がり、二人の周囲だけ、熱量が高い。分け入った竿の先が最奥を小刻みに責めつけて、サクラはいよいよ逃げ場がなくなった。艶やかに色づく吐息を首筋に浴びながら、ナルトはサクラを抱えなおす。
「布団に移動しようか」
 ナルトはそう囁いて、サクラの中に挿入したまま壁からその背を離した。身体を繋げた格好で歩こうとしている。その意図に気づくと、羞恥のあまり、サクラは身を捩らせた。
「こんな格好やだ!おろして!」
「動いたら危ないよ」
 一歩二歩と歩くたび、不規則に身体が揺れて、そのたびに中が抉られる。ナルトの身体にしがみつくしか手立てがなくて、サクラは泣きそうに顔を歪めた。広げた忍具を通り過ぎ、畳の上に敷かれた布団に辿り着くと、ナルトはサクラの身体を抱えたまま、胡坐をかいた。腰を落とした時の衝撃で、中を深く突かれる。サクラの口から漏れた小さな悲鳴ごとナルトは貪り、柔肌に手を這わせた。唇を離すと、つうっと糸が引き、もう一度啄ばむ。
「こんなの、今日だけよ……」
 ナルトの肩に頬を乗せて、サクラは涙声で続ける。
「私が気をつけてないと、関係がだらしなくなっちゃうから、いつだって……」
「うん、知ってる」
 ナルトはそう言ってサクラの髪を片手でかきあげ、生え際に唇を寄せた。
「一度許しちゃうと、歯止めがどんどん利かなくなっていく。そうなると、元に戻れなくなるの。任務で組めなくなる」
「わかってる。だからオレも、任務中は手ぇ出さないって約束を守ってきた。だけど、今日だけは一緒にいて。このままオレと繋がってて」
 例外を作ってしまえば、何だかんだとそこに縋って、ずるずると関係を持ってしまう。だからこそサクラは、任務に携わっている間はいつだって必要以上に姿勢を正してきた。自宅に戻るまで、ずっと忍の顔を貫き通し、それを完璧にやってのけた。二人のツーマンセルは、そんな日々の積み重ねだった。
「こんな男でも、一緒に住んでくれる?」
 ナルトが問いかけると、サクラは表情を隠すように額をナルトの肩に押し付けて、こくりと頷いた。一緒にいたいのは、サクラの方だ。ナルトが一人で眠る夜を、どうしても見過ごせない。隣に自分を置いて欲しい。そんなサクラの胸中を知っているのか、ナルトは無防備な首筋に吸い付きながら、サクラの腰をゆるゆると動かしはじめる。
「や、いや……」
 その反応を拒絶と捉えたナルトは、サクラの顔をそっと覗き込む。せつなげな視線を受け止められなくて、サクラは目を瞑り、頬を上気させた。
「……そんなに動くと、もう、もたない……」
 消えそうなその声に、ナルトはサクラの腰を強く掴むと、自らを咥え込んだ入り口を竿の根元に押し付けて大きく動かした。サクラの中で竿が動き回り、息もつく間もなく快楽の海に溺れていく。
「あッ!あッ!あんっ!」
 突かれて、揺さぶられて、擦られて、抉られて。されるがままに穿たれる最中、切羽詰った声で名前を囁かれて、サクラはさらに乱れた。ナルトの肩に両手を置いて、深く繋がろうと膝を立てる。だらしなく開いた口元からは、甲高い喘ぎ声しか出なくなり、感じる部分を突かれれば、もっと欲しいと身体が反応した。よがる表情をあますことなく晒した末に、二人の間には一切の壁が取り払われる。
 この夜の共寝は本当の秘め事で、一度限りの情交だった。