(注)以前書いた「凭」の続き。エロスです。苦手な人は読まないようにお願いします。




 サクラがまともに動けるようになったのは、玄関を潜ってからたっぷり三十分が経過した後だった。疲れの残る身体で風呂に入り、軽く食事をして、荷を解く。ナルトは別の部屋で、明朝出発に向けて準備をする。二人は胸の奥に封じた感情を恐れるかのように、近づこうとはしなかった。すれ違う時には空気に色がつき、強烈な引力によってその手は互いの身体を求めようとするが、意志の力でなんとか逃れた。
 就寝時間を迎えてもそれは変わることがなく、仰向けで床に就くサクラに背を向けて、ナルトはベッドの端ぎりぎりの場所に横たわった。
「明日は、何時?」
「5時には出るよ」
「早いのね」
「うん」
 間をわずかに置いて交わされる会話は、他愛のない内容に似合わず、張り詰めた緊張感があった。しんと静まり返った部屋に、布団を軽く引き上げる音が響いた。
「支度はできてるから、簡単にメシ食ってさっさと出るよ」
「気配を殺して?」
「……寝てていいから」
「見送りたいのよ。せっかく家にいるんだから」
「休みなんだし、ゆっくりしてて」
「意地でも起きるからね」
 子供のようにふてくされたサクラの態度に、ナルトが纏っていた堅牢な空気が、かすかに緩んだ。小さく笑う気配がする。
「ねえ」
 サクラは顔を横たえて、ナルトを見る。暗がりにもわかる明るい金髪が枕に乗り、布団の隙間からは首筋が覗いている。
「今日は、そうやって寝るの?」
「うん」
「顔を見られないのって、寂しいわね」
 やや間があいて、布団の擦れる音がする。寝返りを打ったナルトは、自身の右腕を枕にしてサクラの方を向いた。潤みがちな女の瞳と、燻る熱を秘めた男の瞳が交差した。
「身体は?」
「まだ、あまり自由は利かない」
「じゃあ寝ないとな」
「そうね」
 布団の中に収めたはずの手が、どちらからともなくのろのろと持ち上げられる。サクラの左手が枕の上に乗り、布団からわずかに出ているナルトの左手は、迷いを見せながらもサクラの左手を掴んだ。触れあった指先から火花が出そうなほどの熱が広がる。人差し指の腹を、サクラの親指がそっと擦る。それを合図に、ナルトはサクラの上に覆いかぶさった。一度触れてしまえば止まらなくなると、二人ともわかっていた。
「明日、早いのに……」
「サクラちゃん、動けねえんだよな」
 二人は抗うように言葉を漏らすが、それでも熱からは逃れられない。探り合うように近づきながら、唇は重ねられた。ナルトはサクラの左手を解放すると、サクラの顔の横に肘をつき、耳や髪を弄った。サクラは離れてしまった温度を惜しみ、ナルトの右手を探す。絡ませた指が、合わせた手のひらが、ねじ込ませた舌が、二人の熱をあっという間に押し上げた。
「腕上げんのもキツいだろ?」
 顎の下から喉をつぅっと舐めながら、ナルトが言う。答えるのを迷っているのは、肯定してしまえばナルトが行為を止めてしまうかもしれないと思っているからか。サクラは唇を引き結ぶ。吸い付く喉から舌を耳元まで這わせ、ナルトは「止めないから」と囁いた。
「このままがいい?」
「座って凭れかかるのが……楽かも」
「じゃあ、ちょっと待って」
 ナルトは布団から這い出ると、Tシャツを脱いで床に置く。そして横たわっているサクラの身体を抱えると、自分はヘッドボードを背に座った。サクラが帰宅した時と同じ格好だ。伸びた髪を左に寄せるとうなじを吸い、服の裾をたぐって腹を撫で回す。すべらかな肌の感触が下腹部にずしんと来る。下から乳房を掬うと、膨張は増すばかりだ。親指の腹で柔らかな先端を擦ると、肩がピクリと跳ねる。思わず竦めた首に吸い付き、親指と人差し指とで先端を摘んだ。
「ん……」
 わずかにうつ伏せた顔から、声が漏れる。ふう、と吐くその息に指を絡ませ、唇の表皮を指でなぞり、口内に差し入れた。指をなぶる舌の感触は、自分のモノを銜え込んだ時とイメージと重なり、下半身がずくりと疼いた。
「着たままする?」
「……脱がせて」
 肌を合わせたいと思うのは、お互い様のようだ。胸に擦れる布地が二人を隔てているようで、実は焦れていた。上着を脱がせると、息苦しくさせないよう注意を払って、強めに抱きしめる。皮膚の合わさる感触がたまらなかった。この心地良さは中毒性がある。欲がざわつき、沸騰した血が暴れ回る。
「……硬くなってる」
 だらりと力なく下がっている右手が、ナルトの下腹部に移動する。
「今日はいいんだ、大丈夫」
「でも、」
 前に回した左手でサクラの顔をこちらに向かせると、言葉を塞ぐ。疲れ切った身体でもなお自分を受け入れようとしてくれることだけで、ナルトは満足だった。サクラの肌を撫で回していた手を下におろし、下着ごと脱がせる。待ってて、と一言置いてサクラの身体を一旦ベッドに横たえると、自分もまた素っ裸になった。元居た場所に戻り、再びサクラの身体を背後から抱える。
「力抜いていいよ」
 言いながら左手をサクラの左腿を掴むと、ぐっと開いた。露になった秘部に右指を添える。まだ開ききっていないその場所は、指を銜え込むにはまだ早く、夜の空気に晒されて頼りなげに震えている。顔を埋めて溶かしてやりたい。乱暴な欲が、鎌首をもたげそうになるが、今日はそんな真似をしたくなかった。
「ゆっくりするから、安心しな?」
 裸の肩に凭れるサクラの顔を覗き込み、耳元で言い聞かせる。小さく頷くのを見て、ナルトは微笑んだ。乱れてよがる姿もたまらなくそそるが、こんな風に身体全部を自分に預けて恍惚の表情を浮かべる様を見ると、大事に愛したくなる。急激に快楽を押し上げるのではなく、じわじわと熱が広がるように大事なのだと伝えたい。柔らかな肌に手のひらを滑らせ、肩や背中に小刻みに吸い付く。サクラの唇から、陶然と息が漏れた。
「可愛いなあ、サクラちゃんは」
「あんたの方が、絶対可愛い……」
 うわ言みたいに呟く口元は誘うように薄く開いており、思わず貪りたくなるが、内容が気に入らない。指でゆっくりと入り口を広げながら、憮然とした声を出す。
「可愛いじゃなくて、格好いいの間違いだろ」
「私と違って、素直だし……ん……笑うと、子供みたい」
 顔をすり寄せてくる様が愛しい。しかし。返ってくる答えに納得はできなかった。
「……そういうこと言うんなら、酷くしちゃうよ?」
 解けてきた入り口から指を上にするりと滑らせて、小さな膨らみを探り出すと、強めに掴む。身体が大きく跳ねた。
「あ、やだ……やっ!」
 サクラをベッドに横たえると、胸の先端を舌で転がし、音を立ててしゃぶる。膨れ上がった先端は口内でいいように弄ばれ、少しずつ開いていた秘部からは、とろりと粘液が伝い落ちた。
「あ、あ、んっ!……ねえ……許して」
 頭を左右にゆるゆると振りながら、サクラは懇願する。
「じゃあ、訂正してもらおうか」
「格好、いい……よ……」
「どこらへんが?」
 指で絡み取った粘液を、つっと太股に擦り付ける。
「も、やだ……」
「ちゃんと聞くまで止めないよ」
「言うから、待って……」
 ナルトは腰元で遊ぶ手を止めると、左手で髪を梳きながら、サクラの息が整うのを待つ。
「任務に行く前の横顔とか、」
「うん、うん」
「忍具の手入れをしてる時とか、」
「なるほどね」
「あと、」
 言葉をそこで途切らせたサクラと、目が合う。濡れた瞳だ。
「こうしてる時、とか……んっ!」
 十分すぎるほどの答えが返ってきたので、その口を塞いだ。手や足は満足に動かないようだったが、絡めてくる舌の動きは何よりも雄弁だった。太腿を軽く持ち上げると、竿を沈めた。額や頬に口付けながら、浅い場所でゆっくり動く。抑えた喘ぎ声がすぐ耳元に響いた。しがみついてくる身体の熱さに、押えが利かなくなりそうだ。頭の中が真っ白になる。
「……ね」
 やや荒い息を吐きながら、サクラは顔を上げる。その動作さえ、きっと辛いはずだ。前髪を手で梳いて、上気した頬や潤みがちな瞳に視線を注ぐ。
「私ばっかり良くなってるの、いやだ」
 なんともいじらしい言葉とその艶然とした表情に、意識すべてを奪われる。
「明日寂しくならないように、ちゃんと愛して」
「……もっと、して欲しい?」
 人差し指で顎に触れる。こくんと頷くのを受けて、右の太ももに跨ると、左足を肩に担いで深く挿入する。甲高い嬌声が口から漏れ、身体が跳ねた。小刻みに腰を動かして、中を擦りあげる。ある場所を突けば、ひときわ反応が良くなった。
「そこ、ダメッ……」
「知ってるよ」
 途端に中がひくついて、溶け出すのがわかった。ただでさえ任務上がり。こんな風にしてしまえば、明日はきっと身体が辛いはずだ。それでも、「ごめんな」と言うのは何か違うような気がした。
「すげえ可愛い。いつも可愛いけど、今日は特別可愛い」
 声を荒げて言えば、うっすらと目を開いて、サクラはナルトを見た。達するのが近いだろう、喘ぎ声以外に言葉は出ない。唇を貪りたい衝動にかられるが、塞いでしまえば、声が聞けなくなってしまう。息の絡むほどの近さで艶かしい表情を眺め回し、瞳を覗き込む。
「もっと可愛い顔、オレに見せて」
 そう囁いて、枕の脇に投げ出されたサクラの手に自分の手を重ねる。握り返されたその手の熱さに、ナルトは形だけの優しさを投げ捨てて、サクラの身体をきつく抱いた。




 情交後、サクラはすっと眠りに落ちた。頬にかかる髪を耳に掛け直しても、身じろぎ一つしない。明日は起こさずに家を出て行った方が良さそうだ。里に戻ったら、ご機嫌取りをどうするか。それを考えることさえも、ナルトには楽しかった。もう少しこのまま寝顔を見ていたかったが、さすがに明日が辛い。こめかみに唇を寄せると、ナルトもまた目を閉じた。




2013/04/03