(注)「ROAD TO NINJA」設定です。本当はメンマさんなんですが、書いてる本人が楽しいのでナルト表記でお願いします。




 サスケくーん、と遠くから黄色い声が聞こえると、サスケは軽薄な笑みを浮かべて振り返り、キザったらしく片手を上げた。その仕草がまた異様に似合うのだから、ナルトもサクラも文句ひとつ言う気になれない。アカデミーの頃からずっと見続けてきた光景は、未来永劫変わらないのだろう。そのまま離れていくのかと思いきや、サスケはサクラにすっと近寄り、お決まり台詞を口にする。
「困ったことがあったら言え。オレはいつもお前の味方だ」
 任務後なので、その手に花はない。
「うん、そうする」
 サクラは平坦な口調で切り返すが、サスケは気を悪くした風でもなく、むしろ嬉しそうにそれを聞き届けた。じゃあな、と二人に告げると、女の子の群れの中に帰っていく。
「あいつさ、トイレの電球切れたから困ってるって呼びつけたら、取り替えてくれんのかな」
「そんな、便利屋じゃないんだから」
「一度試してみれば?」
「考えとく」
「さーて、腹減ったなー。そろそろ家帰るか」
「今日は何食べようかな」
 大門近くで立ち話もそろそろ限界だ。腹の虫が騒ぎはじめている。任務報告書を提出しにふらふらの身体で受付に向かったカカシは、今頃待機所でひと休みをしているだろう。そして、体力も残ってないくせにガイに勝負をふっかけて見事にフラれるのだ。下忍時代からのワンパターン。今度は何で勝負するのだろうかと話しながら里の中心部に向かって歩いていると、サクラちゃん、と声を掛けられた。大門近くにある魚屋だ。
「任務帰りかい?お疲れ様」
「はい。無事に帰ってこられました」
「じゃあね、これ持ってきな!イキのいいのが入ったからおすそ分け!」
 店主は手際よく魚を詰めると、店の外まで出て行って、サクラの手に袋を持たせる。
「えーと……いいんですか?」
「たくさん仕入れちゃったんだ。貰ってくれると助かるよ」
 ニッと笑って店主が差し出せば、サクラも「じゃあ」と言って受け取るしかない。
「また来なよ。サービスするからさ!」
「はい、ありがとうございます」
 袋を心持ち高く掲げて、サクラは頭を下げた。店主は店の中に戻り、二人は歩みを再開する。
「……貰っちゃった。しかも四尾も」
「貰っとけって。好意なんだから。突き返しちゃったら、おっちゃんだって悲しむってばよ」
「今日は秋刀魚かー」
「嫌いだっけか?」
「ううん。結構好き。焼いて食べると美味しいよね。あ、どうせならカカシ先生呼ぼうかな」
「なッ!」
 ぐりんと勢い良く首を横に向けて、ナルトは小さく叫んだ。
「だって、大好物でしょ?今日はずいぶん疲れてたし、ご飯くらいご馳走してあげても……」
「四尾なら、ウチ来ればいいじゃん!オレ、父ちゃん、母ちゃん、サクラちゃんで四尾!それがいいってばよ、そうしよう!」
「そういうわけにはいかないでしょ。いきなり押しかけて、秋刀魚貰ったから焼いてくださいって、何よそれ」
「じゃあ、七班。七班の四人で秋刀魚食おう」
「サスケくんが来るわけないでしょ。女の子の相手で忙しいもの」
 ぬぬ、と歯噛みするナルトだったが、唇を尖らせながらポツリと言う。
「……オレも行く」
「ナルト」
 諭すように名前を呼べば、ナルトはふてくされた顔でサクラを見た。
「オレも秋刀魚食う。食うったら、食う」
「クシナさんが家で待ってるよ」
「母ちゃんのメシも食う。オレってば育ち盛りだから問題ナシ!」
「二人分なんて食べたら太っちゃうでしょ」
「その分、動くし。修行めっちゃ頑張るし」
 意地でも引こうとしないナルトを前に、サクラはどうしたものかと息を吐くが、二人より三人の方が楽しいし、話も弾む。恩師には悪いが、時々会話が噛み合わなくて困るのも正直なところだった。
「うーん……今日は三人で食べよっか」
「オウ!」
「今からご飯支度だから、少し時間かかるよ?」
「そんなの全然!手伝うし!オレってば、カカシ先生呼んでくる!たぶん、待機所で死んでっから!」
 ナルトはそう言い残すと、サクラの気が変わらないうちにと焦っているのか、待機所の方角へすっ飛んで行った。
「……私も甘いなあ」
 任務の疲れなんてひとつも残っていないナルトのタフな後姿を眺めながら、サクラはひとりごちる。さて、四尾の秋刀魚はどう分けよう。一人一尾の計算では、どうしても余る。カカシとナルトで半分ずつにしてもらって、一尾半というのが妥当だろうか。
「やっぱり、サスケくんにも声掛けてみようかな」
 その後、一人で商店街を歩いていると、魚の入った袋を持ったサクラを見かけた店主たちが、秋刀魚に合うおかずを色々と持たせてくれた。この里に育ててもらってるんだなあ、と両手に袋を下げながら噛み締める。見上げれば、尊敬する父の顔が彫られた火影岩。
 この里に生んでくれて、ありがとうございます。
 幼い頃に命を散らした父母に感謝を告げると、自分もいつか火影に、と誓いを新たにした。




※チャラい人は単独行動が多いイメージ。でも誘ったら「オレも行く」って駆けつけると思うよ。誘わなかったらしょんぼりするぐらい可愛げがあってもいい。



2013/03/03