(注)「ROAD TO NINJA」設定です。本当はメンマさんなんですが、書いてる本人が楽しいのでナルト表記でお願いします。 火影岩の脇にある階段を、黙々と昇る。視線をわずかに持ち上げれば、階段は上へ上へと果てしなく続いていた。任務上がりだったが、自分の身体を苛めるように動きを止めない。一段一段しっかり踏みしめて、昇ることに集中する。今は余計なことを考えたくなかった。 「どこまでついてくる気よ」 「オレもこっちに用事があんの」 七班が解散になった後、そっと気配を消したはずなのに、ナルトは気づくと後ろを歩いていた。しかも背後をピッタリつくのではなく、適度な距離を保っている。まるでサクラを見守るように。 「わざわざ階段を昇らなくてもいいでしょ」 「昇りたい気分だから。まだ身体動かし足んねーってばよ」 風によって運ばれた砂粒が階段の踏面にさっと散らばっていて、サンダルの底をざりざりと擦る。その音が二人分、淡々と響いている。 「大体、用事って何なのよ。火影岩しかないのに」 「四代目の近くに居たいんだよ、オレも」 落ち込んだ時は、四代目の火影岩に一番近い階段の踊り場で、里の景色をじっと眺める。それはほとんどサクラの癖みたいなものだった。ナルトがどういった経緯でその癖を知ったのかはわからない。誰にも気づかれていないと思っていたのに。 「早く帰らないと、クシナさんが怒るよ」 「もう子供じゃねーんだから、大丈夫」 「ミナトさんだって、心配するよ」 「理由を話せばわかってくれるってばよ」 昇り続けるその足取りは緩まない。背後の足音が止むことを望む一方で、途切れないで欲しいとも思う。揺れ動く心を振り切るように、階段を昇る速度を上げた。それでも足音は追いかけてくる。 「オレはサクラちゃんみたいに頭良くねーから、作戦なんて立てられねー」 段取りには自信があったし、やれるとも思った。しかし、最後の最後で不確定要素に振り回された。運が悪かったのだと周囲は口々に言うが、視野がまだ狭い証拠だ。単独任務も任されるようになって、慢心していたのかもしれない。自分自身に腹が立つ。 「身体が先に動くタチだから、任務じゃ足手まといになってるかもしんねー」 チャクラ量を考えずに写輪眼を使いすぎるカカシ、溢れんばかりの才能があるのにそれを積極的に使わないサスケ、着実に力はつけているのだがいつだって先走ってばかりのナルト。その三人を上手くコントロールし、歯車を回すのが自分の役割だ。いざという時には頼りになる三人だし、足手まといだなんて思ったことは一度もない。 「だけどさ、こういう時にサクラちゃんの側に居ることぐらいはできるよ。何か話してた方が気ぃ紛れるし、一人きりで居るよりはずっといいだろ?」 いつもは子供みたいにまとわりついてくるくせに、調子が出ない時に限って、バカみたいに優しくなる。強引に手を引っ張るのではなく、そっと手を差し伸べてくる。こういう優しさに、自分はとことん弱いのだ。 「落ち込んでる仲間を放っておけるかよ」 「……仲間?」 「そ。今はね」 それならいいだろ?と言わんばかりの声だ。指先ひとつ触れていないのに、ぬくもりさえ感じる。 「オレ、意外と気ぃ長い方だから」 長い長い階段が、いったん途切れる。階段の踊り場に出ると、規則的に動いていたサクラの足が止まった。動かすことが、とうとうできなくなった。 「どした?」 背後から駆け寄ってくるナルトの気配を感じて、顔を俯ける。今の自分には、やらなければならないこと、やり遂げたいことが山ほどある。ナルトのことを一番大事にできないのなら、手を掴むべきではない。わかっている。何もかも、わかっている。 「疲れちゃった?おぶろうか?」 前に回りこんだナルトが顔を覗き込もうとする。里中を真っ赤に焼いている斜陽の光が遮られ、サクラの顔に影を作る。そろそろと手を持ち上げると、オレンジ色の忍服をぎゅっと握り締めた。 「……側に居て」 か細く、消え入りそうな声が、口から漏れ出た。 「いつまでだって、居てやるよ」 ナルトは服の裾を握り締めているサクラの手をゆっくり解くと、当たり前のように手のひらを重ねた。繋がれた手を通してじんわり伝わってくるのは、心を溶かすのに十分な温度だった。階段を昇りはじめるナルトに続いて、サクラも再び足を動かす。サクラを火影岩へと導くその歩みは、いつもよりずっと遅い。いたわってくれているのだと痛いほどわかった。 前を歩くあたたかな手の持ち主に気づかれないよう、サクラは少しだけ泣いた。 ※基本ムチャクチャ優秀な幻術世界の春野さんだが、そこは人間なので落ち込むこともたまにある。メンマさんは任務じゃ役に立たなそうだけど(なんか弱そう)、うずまき一家を見ているとこういう優しさを持ってそうだな、となんとなく思った。あの映画の中で幻術世界の二人なんて一切描写されてないのに、捏造にも程がありますね。 2012/08/12
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