「あーあ、襟が破けてる」
 洗ったばかりのTシャツを手に、サクラが嘆く。どうせなら洗濯をする前に見つけたかったが、同居人の汚れ物をいちいち確かめる訳にもいかない。このTシャツも布地がだいぶ傷んでしまったから寝巻きにしたのだが、こうなれば雑巾にでもするしかないだろう。干そうかどうしようか迷ったが、乾いてから処理をした方がいいだろうと思い、肩の縫合部に洗濯バサミを挟んだ。
「サクラちゃーん、布団干そうかー」
 床掃除を終えたらしいナルトが、お伺いを立てにやってきた。今日は大掃除の日で、朝早くから洗濯やら掃除やらを二人掛かりでやっつけている。シーツも枕カバーも洗ったし、布団を干せば今日は気持ちよく眠れそうだ。
「こっちに持ってきちゃっていいー?」
 障子の向こうから現れたナルトの姿を見るなり、サクラの表情が固まった。
「ん?床掃除なら、もう終わったよ?」
「あんたそれ、裾がボロボロじゃないの!」
「へ?」
「服よ、服!その一楽Tシャツ!」
「裾って……あらら、糸がほつれちゃってる」
 どうもナルトは物持ちが良すぎる傾向があり、少しの色褪せや糸のほつれも気にせず着てしまう。部屋着ならば問題はないのだが、その格好で外に出てしまうのだから、サクラとしては頭が痛かった。
「まともな服、ちゃんとあるんでしょうね」
「なけりゃないで、今日は忍服で過ごせば……」
「そんなカカシ先生みたいな真似しないの!私が笑われるんだから!」
「へいへい、着替えますよっと」
 ナルトは箪笥の引き出しを漁り、布地が伸びたり色が褪せたりしていないまともなシャツを物色する。普段は気にしていなかったが、改めて見てみるとどれも年季が入っているように思える。掃除もひと段落したし、これから買い物に行こうか。サクラに声を掛けようとするが、サクラはといえば洗濯物の皺を伸ばしながらこんなことを言う。
「七班でキチンとしてるのは、サスケくんだけね。カカシ先生はいっつも忍服。寝る時もあの服なんじゃないかしら。サイなんか、こないだ服に絵の具つけて歩いてたし」
「サスケの奴だって、そこまで頓着してないってばよ。気ぃつくと甚平ばっかだし。ジジィかっつーの」
「サスケくんは素材がいいんだから、何を着たって似合うのよ」
 そんなにサスケくんがいいんなら、サスケくんちに住みなさい。
 ナルトの脳裏にそんな一節が過ぎったが、それを口にしたら「じゃあ遠慮なく」と出て行かれるのがオチだろう。悔しいが、一生言えそうにない。
「同じとこで勝負してどうすんのよ、負けるに決まってるでしょう」
 土俵に立つ前に、負け戦決定かよ。
 サスケの顔立ちはサクラの好みのど真ん中ストライクらしく、永遠の第一位なのだという。いい加減、その座を開放してくれてもいいとは思うのだが、顔が好みだとサクラに言われたことは一度もない。積年の恨みとは言わないが、拗ねたくもなる。
 今日は一人で買い物に行ってやる。そんでもって、可愛い女の子に声まで掛けてやる。あわよくば、一緒にお茶まで飲んでやる。
「あんたはね、面構えはいいんだから、シャンとした方がいいの」
「……なんですと?」
「着るものちゃんとして、ピシッと背を伸ばして歩けば、それでいいのよ」
「もしかして、オレんこと格好いいって言ってる?」
「それは言ってない」
「うっそだぁ!言ってるね!」
「素材の勝負じゃ完敗だけど、面構えはあんたの勝ち。ねえ、布団持ってきて。天気もいいし、干したら出かけよう」
「デートっすか」
「ただの買出しよ。あんたの服、何とかしないと」
 面構えというのはいまいちピンと来ないが、サスケに勝ったので良しとしよう。世界で一番可愛い女の子から声が掛かったので、予定は変更だ。箪笥の中からなるべく状態が良い服を取り出すと、布団を取りに部屋を出た。





※経験を積んで自信がついたのか、どんどん顔つきが良くなる人っていますよね。世界を舞台に活躍するスポーツ選手に多い。ナルトはそういうタイプじゃないかと思う。もちろん言動も格好良い。また、「ヤマちゃんも七班じゃん」とお思いでしょうが、オフの日の隊長をあまり見たことがない設定っつーことで。




2011/08/14