夜もとうに更けた頃。森の中で野営をしていたサクラは、誰かが寝床から這い出る気配に目を覚ました。目立つ金髪が焚き火の炎に照らされるのを見て、ナルトだと判断する。真夜中に草むらへ消えるのだから、思い当たるのはひとつしかない。それくらい寝る前に済ませときなさいよ、と毒づきながら寝返りを打った。しかし、待てど暮らせどナルトは戻らない。とても気になる。
「何やってんのよ、もう……」
 見張り役のカカシは、焚き火の前で胡坐をかいてイチャパラを読んでいる。気になるなら見に行ってきなさい。そう言わんばかりに知らん顔だ。
「五分で戻ります」
「ん、りょーかい」
 カカシに一言断ってから、ナルトが消えた藪の中にサクラは足を踏み入れる。しばらく進むと、妙に踏ん張っている声が聞こえてきた。これは本当にご不浄だろうか。まさか腹痛?全員同じものを食べているのに、ナルト一人が腹を壊すなんて馬鹿なことはない。拾い食いでもしたか、なんて失礼なことを思いながら、さらに進む。すると、家が一軒建つぐらいのスペースに出た。その真ん中で、ナルトが両の手の平を合わせている。気合の入った声に合わせて、ぼふん、と煙。
「……何あれ?」
 変化だろうか。煙の中から、狐が現れた。尻尾が九本生えている、小さな狐。ふわふわと毛並みが良くて、思わず撫でたくなる。どれぐらい見つめていただろうか、やがて再び煙が上がり、子狐はナルトに戻った。
「ちっくしょ……やっぱ上手くいかねえ」
 小声でそう悔しがり、ナルトは空を仰ぐ。サクラはポケットから小さな袋を取り出すと、肩で息をしているナルトに近づいた。
「うわ、サクラちゃん!や、今のはさ、修行なんだってばよ、修行!遊んでるんじゃなくてね?わ、わ、ごめん!」
 殴られると思ったのだろう、目をぎゅっと瞑って衝撃に備えるナルトに構うことなく、サクラは袋の中から兵糧丸をひとつ摘んで口の前に持っていく。
「はい、あ〜ん」
「え?ええッ!?」
「何してんの、口開けて」
 戸惑いながらもようやく口を開けたナルトに、兵糧丸を含ませる。
「はい、ちゃんと噛んで」
 ガリゴリ噛み砕く様を眺めて、うんうん、と満足そうにサクラは頷いた。
「じゃ、倒れない程度にね」
「……あんがと」
 寝床に戻ると、カカシがどうだった?と様子を聞いてきた。気になるなら自分が行けばいいのに。そう思いながらも、一応返事をする。
「倒れないように釘は刺しておきました」
「なら安心だね」
 焚き火の中に枝を放りながらカカシが言うのを受けて、サクラは寝床に潜り込んだ。目を閉じると、さっきの狐がまぶたの裏に浮かび、なかなか消えてくれない。
 修行、上手くいかなくてもいいのに。





※サクラちゃんが最近、小動物を見るような目でオレを見てきます(ナルト談)




2011/06/12