(注)以前書いた「揺」の火影ナルトと春野さんが、くっついてる設定です。しかも爛れたエロスなので、苦手な人は引き返すが吉です。




 世間的には、婚前旅行と呼ぶのだろうか。鉄の国から帰って来る途中にいい温泉宿があるから、一緒に行こう。そうナルトが提案した。代替わりをした火影の引継ぎ業務はようやく落ち着いたばかりで、いまだにナルトは自由の利かない身だ。まともに話をする時間すら作れないことを気にしていたのだろう、会談の帰りにもう一泊を無理やりねじ込み、二人で過ごそうと言ってくれたのだ。サクラは何年にも及ぶ長い里外任務から帰ったばかりで、特定の任務につくこともなく、現場復帰をするため鍛錬を重ねる日々を過ごしていた。誘いを断る理由はそこになかった。




「髪をそうやって上げるのって、なんか色っぽいよね」
 風呂あがりに荷物をまとめている最中、そんなことを言われたので、思わず振り返った。ナルトは畳の上に胡坐をかいた格好で、片膝に頬杖をついている。こちらに視線を向けているのは気づいていたけれど、ぼんやりしているだけかと思っていたのに。そんな気の利いたことを言えるようになったとは、正直驚きだ。
「風呂上りって、いつもそうしてんの?」
「うーん、したりしなかったり。だいぶ長くなっちゃったし、バッサリ切ろうかな」
「今みたいに上げられる長さは、残して欲しいなあ」
 いったん腰を持ちあげ、サクラのすぐ傍にしゃがみこむと、そっと抱き寄せる。糊のきいた浴衣が二人の間を隔てるが、そのもどかしさがかえって欲に火をつけた。表面をなぞるだけの口付けを幾度か交わし、うっすらと閉じられた唇をどちらからともなく割る。
「……いい?」
 いつになく掠れた声で、ナルトが囁く。すぐにでも身体を重ねたいのだと、熱を帯びた視線が訴えている。しかしサクラは、ナルトの胸に添えた両手を少しだけ強めに押し、待ったをかけた。
「あのね、私、まだナルトに言ってないことがあるの」
 乱れてもいない浴衣の襟と裾を直すのは、居住まいが悪いからにすぎない。言おう言おうと思って、ずるずると先延ばしにしていた。今を逃してしまえば、もう口に出すタイミングがない。
「二十四にもなってどうかと自分でも思うんだけど……その、誰かとこういうことをするの、これが初めてなのよ」
「……へ?」
「慣れてないし、すこーし反応がおかしかったりするかもしれないけど、そこはこちらの事情を汲んでくれたらなって、ね?」
 返事を待つ時間が妙に長いのは、気のせいではない。時計の秒針が何度もカチカチいっている。子供がいてもおかしくない年なのに、ろくな恋愛経験もなく、男と枕を交わしたこともない。こんな女、やっぱり面倒くさいかしら。
「……告白します」
 返ってきたのは、やたらと神妙な声だった。ふと横を見やれば、胡坐をかいていたはずの足は綺麗にたたまれ、正座なんぞをしている。
「はい、なんでしょう」
 異様な雰囲気に気圧されて、こちらも思わず敬語だ。
「いい年こいて、オレも経験ないです」
 一瞬、何のことを言っているのかわからなかった。
 経験って、何の?
 確か今、オレ「も」と言った。ということは、まさか。
「ええッ!嘘でしょ、何言ってんの!?」
「もー!やめてよそういう反応、傷つくからー!いい年した男がそういう経験ないと、女はドン引くんでしょ?知ってるよー。言わなきゃよかったってばよ、もう!」
「だってほら、アンタ火影だし、」
「関係ないってばよ、それ。なんとなくそういう機会がなくて、ここまで来ちゃったっつーか。生きてこれちゃったっつーか。玄人のオネーサンのお世話になろうかとも思ったけど、なんかそれも違うなーって」
 がしがしと頭をかき、ああだこうだと言い訳らしきものを連ねていたが、なんだか妙な流れになってしまった話を無理やり断ち切ろうとすべく、ナルトはひときわ大きな声を出す。
「とにかく!」
 声に合わせて膝頭を勢いよくパシンと叩いたが、どうやら力を入れすぎたようで、こっそりさすっている。
「慣れてない者同士、あまり気負わずいきましょうってことで、うん」
「まあ、そうなる……のかな?」
「つーわけで、よろしくお願いします」
 正座をして向かい合い、一礼。なんだか、これから組み手をするみたいだ。先ほどの甘い空気を壊したのはサクラ自身だったが、あれは少し勿体なかった気がする。そのまま流されておけばよかったのかしら。ため息の出そうな状況の中、ナルトはそろそろとにじり寄り、サクラの肩をふたたび抱く。不器用なりに、雰囲気を取り戻そうと必死らしい。ならば、こちらもそれに乗ることにしよう。引き寄せられるままに身体を任せた。
「……ん?あれ?」
 帯のあたりをごそごそといじっているのだが、その様子がおかしい。サクラの帯の結び方は、適当に結んでいるナルトと少々異なる。きっと、帯の解き方がわからないのだろう。
「あ、これはね、」
 帯に手をやるも、手元をじっと見てくるナルトの視線が気になって仕方ない。なんだかやりにくいので、いったん背を向けてから解いた。帯を軽く畳んで布団の端に置くと、今度は身体を覆っている浴衣が気になる。どうせ脱ぐんだし、皺にならないようあらかじめ脱いでしまった方がいいのだろうか。ああもう、こういうのって全然わからない。
「オレ、そっち方面の欲が薄いんだって、今まで思ってた。でもそれ、違ったみたい」
 耳元から声がしたかと思えば、浴衣の襟を背後から持ち上げられ、裸の肩をするりと落ちる。肩口に唇を寄せられ、柔らかく湿った感触に首を竦ませる。浴衣の襟からしのばせた手は、肩から二の腕を滑り、袖から両の手首を引き抜いた後、そのままわき腹から腰に向けてゆっくりと撫でた。音を立てて啄ばんでいた項から唇が離れ、背筋に沿って舌先が下りた。疼きを感じて息が色づく。
「ん……」
「綺麗だ」
「やだ、急に何よ、」
「わけわかんなくなる前に、言っておこうと思って。触り心地がいいし、全部が細くて柔らかい。こことか」
 尻の曲線をつっと滑り、やがて太腿にたどり着く。ひとしきりそこを撫で回した後、手のひらはそこを離れ、するすると上を目指す。
「こことか」
 小ぶりな乳房を手のひらでそっと包まれると、うまく息ができなくなる。手に包まれたまま、ゆっくりと揉まれる。項と首筋は、そこかしこが赤く色づいていた。白い肌に、紅の花が咲いている。
「ホント、綺麗だ」
「それ、もうやめて……」
 かぶりを振ると、乳房から離れた手は腰にゆるく巻かれ、次の瞬間、強く抱かれた。あっという間に唇は塞がれ、サクラの望みどおり言葉は消えた。少しの時間も惜しむようにサクラの唇を啄ばみながら、ナルトは自分の浴衣を乱暴に脱ぎ捨てた。素肌を合わせると、今までにない不思議な感触に頭がぼうっと痺れる。合わせれば合わせるほどに、馴染んでくるようだ。丸みを崩すように乳房を揉みしだくと、そのうちに薄紅の頂はふくりと腫れあがり、より強い刺激を誘うようにその存在を誇示する。舌先を軽く尖らせ、丸い膨らみをつんと突付くと、頭上からの甘い声に合わせて揺れた。舐め上げ、吸い付き、強く弄る。
「やあ……ん、ふぅ……」
 胸元で動くナルトの頭を抱え込み、サクラは金色の髪に指を絡ませた。音を立てて膨らみを吸うと、髪をかきまぜる指の力も強くなる。
「ここ、気持ちい?」
 今度は、親指と人差し指できゅっと摘まれた。
「あ、あ、や……」
 少し強めに扱くと、声はどんどん高くなり、身じろぎも大きくなる。サクラは今、どんな表情をしているのか。それを確かめたくて顔を持ち上げると、潤んだ瞳がナルトを見た。
「さっきの、嘘でしょ……」
「ん?何?」
「初めてって、絶対嘘。なんか、余裕……ん……ある、し」
 乳房を揉むその手は、止めない。まだ、もっと、触れていたい。
「余裕なんかないって」
 サクラは機嫌の悪い時のように、ふい、と視線を他所に向ける。自分ばかりが翻弄されてるようで、気に食わないのだろうか。だって、最初はうんと優しくするって決めていた。自分だけ気持ちよくなるなんて、絶対に嫌だ。欲を満たすだけじゃなく、互いに分け合いたかった。
「ただ、オレにも思うところがある」
「そんなのどうでもよくなるぐらい、溺れればいいのよ」
 溺れるという言葉の響きに、頭の芯がかあっと赤く染まった。膝裏を掬い上げてサクラの身体を抱えると、布団の上に放り出す。そのまま覆いかぶさると、先ほどとは打ってかわって、奪うような激しい口付けを寄越した。少しは抵抗するかと思いきや、サクラは両腕を首に回し、負けじと舌を絡ませる。余計な気遣いは無用、ということらしい。
「もう知らねー。やめてって言われても、絶対止めない」
 耳の穴に舌をねじ込み、腋下を手のひらで撫で回し、柔らかな肌を舌で存分に嬲った。どこもかしこも、綺麗な形をしている。横腹に吸い付きながら、下腹部へ。首をいくら振っても、知ったこっちゃない。やだ、と言われれば言われるほど、血が逆流するほど昂ぶりを覚えた。
「待って、そんなとこ……」
 へその窪みを舌先でちろちろと弄ると、動きを遮ろうと手が伸びる。それを身体ごと下にずらすことでかわし、茂みにたどり着いた。乾ききっていたらどうしようかと思ったが、割れ目を擦ると、粘液がほんのりと指の腹についた。それを見せつけるように口に含むと、サクラは泣きそうに顔を歪ませた。両の膝を合わせて閉じようとするが、腿の裏を持ち上げ、顔を埋めた。




 それは、身体に拒まれながらの挿入だった。異物を排除しようとする抵抗は強く、入れるというより貫くといった表現の方が相応しい。こちらも初心者、大丈夫なんだろうか、と心配になる。
「こんなの、痛いうちにはいらないから……」
 背中に回された手のひらに促され、ようやく根元までおさまった。思わず息が漏れる。
「まずいな」
「……なに?」
「これでもう、いつ死んでもいいや、とか思っちまった」
 自分たちは今、互いの一番深いところにいる。絶対に届かないと思ってたのに。生涯叶わない恋心だと、覚悟していた時期もある。
「優しくなんか、しなくていい。好きにして」
 ナルトの頬に手をあて、サクラが言う。
「いや、それは、」
「未練、欲しいんでしょ?」
 さっきまでの挑発的とも感じられる言動が、その「未練」という言葉と結びつく。
 最初に求婚をした際、オレの未練になってくれないか、とサクラに告げた。火影となったナルトに求められたのは、命を捨てる覚悟ではなく、何があっても生き抜く覚悟だ。この世にすがりつく理由が必要だった。その糧が欲しかった。ナルトはそれをサクラに求めた。そんなナルトの心情を理解しているからこそ、サクラは「溺れればいい」などと言ったのだ。
 里に帰り、もう一度この手に抱きたい。
 命の危機を感じた時に、そう強く願えばいい。それが、この行為にサクラが込めた思いなのだろう。
「ああ、欲しいよ。すげえ欲しい」
 ぐっと太ももを持ち上げ、軽く身体をゆすると、背中に回された手がナルトをひときわ強く抱く。内部を抉るたびに足の付け根を伝うのは、鮮血だろうか。潤滑液の役目をしているらしく、かえって動きやすい。他でもない、愛しい人の血だというのに。何やってんだオレ、とか。気持ちよすぎて狂いそうになる、とか。今入った角度がすげえイイ、とか。サクラちゃんも気持ちよくしてやりてえ、とか。このまま世界が真っ暗になってもいい、とか。ああ、それはダメなんだった。
「もう、わけわかんねえ」
 律動を早めると、肉体のぶつかる独特の音が響く。
「それで……いい、の」
 シーツを握りしめていたサクラの手が、ナルトのそれを探り当てる。指をきつく絡めて、手のひらを合わせた。歯を食いしばり、浅い箇所から深いところへ。ぼやけた視界の中、サクラの額に汗が滲んでるのがわかった。薄く開いた口元と相まって、その様はたまらなく淫靡だ。
「未練だけじゃねえ。全部欲しい。オレのモンになってくれ」
「最初……から、その、つもりっ!」
 身体まるごと繋げたい。ひとつ残さず貪りたい。
 荒く息を吐きながら交わした口づけが、欲を吐く後押しする。
 クソ、もう終わる!
「はっ……はっ……」
 精液をぶちまけて、ごとりと頭を枕に落とした。




 情交後、布団の中。
 二人は身体を寄せ合い、未だ燻り続ける熱りに身を委ねていた。
「五年前」
「……ん?」
 細い髪に指に絡ませ、言葉少なにナルトが零す。
「サクラちゃんが里を出てからさ、オレはずーっと寂しかったよ」
 見送りはいらないときっぱり断られ、ナルトは里の大門が見える木の上で、サクラの出立を見届けた。綱手に深々と頭を下げ、いのに手を振り、サクラは見知らぬ土地へと遠ざかる。サスケが里を抜けた時には、あれほどの情熱をもってして後を追ったというのに、サクラのことは追うことができなかった。その手を握ってしまえばどうにかなるなんて、どうしても思えなかった。
「仲間がたくさん出来た。火影にもなった。里のみんなが、オレのことを頼ってくれる。それでも、一番隣に居て欲しかった人が離れちまったってのは、オレにとっちゃあ相当堪えた」
 これは僥倖なのだろう。
 二年ぶりの帰郷を経て、サクラは木ノ葉に戻ることを決意し、自分と添い遂げることを約束してくれた。だが、何かが少しでも違ってしまえば、サクラは出向先の土地に根を下ろしたのではないだろうか。今こうして腕の中にある温もりは、様々な偶然と巡り合わせの賜物であり、触れることすらできない可能性も十分にあった。それを想像をすると、背筋が凍る。
「もう、オレに黙ってどっか行くな」
 サクラの身体をぎゅうっと抱き、懇願にも近い声色で囁いた。
「何があっても絶対帰ってくる。だから、オレんこと待ってろ」
「……わかった、待ってる」
「こーんな可愛い嫁さん残して死ねるかよ。しぶといよ、オレは」
「まだ籍入れてない」
「細かいことはいいの!サクラちゃんはオレの嫁さんです!いい?わかった!?」
 そしてナルトは、泣くな泣くな、と頭をかいぐる。泣いてない、と文句を言いながらも、サクラの目元はほんのり赤い。
「もういい、寝る!」
「ん、オレも寝よっと」
 くるりと背中を向けたサクラの首元に腕を差し入れ、抱きかかえる。腰に回された手に、サクラは自分のそれを重ねた。
「……ちゃんと待ってるから、」
「うん」
「あなたに『おかえりなさい』を言う役目は、私だけにして」
「もちろん、約束する」





2010/11/21