一体、いつの頃からだろうか。二年半の修行の旅から帰ってからのように思う。気づけばナルトの周りには、小さな子供が集まるようになった。とりわけアカデミーの男子には大人気のようで、話題の中心にはいつもナルトが居る。その理由は簡単だ。白い牙や伝説の三忍は、あの年頃の子供にとって両親が寝る前に話してくれる昔話にすぎない。彼らにとって今、一番身近なヒーローは、うずまきナルトなのだ。 木ノ葉で話題に上がる武功には、ナルトの存在が欠かせない。木ノ葉崩しの最中に砂の我愛羅を止めたのも、現火影を長旅から連れ戻したのも、仙人自来也から技を伝授されたのもナルトだ。つい先日も国際手配中の凶悪組織「暁」の連中に攫われた風影を、見事に救い出した。里はその噂で持ちきりだ。 「じゃねー、イルカ先生」 「おう、気ぃつけて帰れよ」 「隙あり!らせんがーん!」 廊下を歩いている最中、通りすがりの男子生徒から、ちょうど太ももの裏あたりに突撃を食らう。螺旋丸と叫びながら相手めがけて突進するのが、男子生徒の間で流行っているのだ。チャクラを上手く練られない代わりに、勢いで相手を吹っ飛ばす。言ってみれば、単なる体当たりだ。 「おめえなあ、母ちゃんや父ちゃんにそれやるんじゃねえぞ。怪我すっかもしれねえからな」 小さな子供とはいえ、忍になるための体術訓練を日々重ねている身体だ。忍の一族ならまだしも、一般人の家庭でそれをブチかますのは問題がある。まともに食らえば間違いなく大人の方が怪我をするだろう。 「ああー!ナルト兄ちゃんだー!」 誰かが発したはしゃいだ声に、その場の空気がふわっと沸き立つ。視線の先にはオレンジ色の派手な忍服。なんとも目立つ標的に向かって、我先にと子供たちが駆け出した。 「おわ!なんだってばよ!」 あっというまに人だかりができ、ナルトはその場から動けなくなる。周囲には、見事なまでに男子生徒しかいない。あいつはどうも、女の子にはモテないらしい。 「ねーねー、影分身教えて!」 「あー……オレ、今忙しいんだってばよ。綱手のばあちゃんに呼ばれてんの!火影さまだぞ、火影さま!早く行かないと怒られちまうの!」 後ろ手に頭をかきながら、ナルトは子供たちにそう諭す。だが、そこで引き下がる子供は一人もいない。子供は大人の都合なぞ考えちゃいないのだ。 「オレも影分身!あれどうやんのー?」 「オレね、螺旋丸!こう、ぐるぐるーってスゲーんだろ、アレ!」 足元にじゃれつく子供達を無碍に扱えず、非常に動きにくそうだ。あの攻撃をかわすのは、ちょっとしたコツがいる。自分も若い頃は扱いに困ったものだ。懐かしい。 「教えてくれるまで動かねーぞ!木ノ葉丸兄ちゃんに螺旋丸教えてっとこ、オレ見たかんな!」 「じゃあ、木ノ葉丸んとこ行けって。あいつ暇だからいくらでも教えてくれっからよ」 「ダーメ!ナルト兄ちゃんがいい!」 その後は螺旋丸の大合唱が始まり、ナルトはいよいよ困り果てる。さて、そろそろかな。ナルトに助け舟を出してやろうかと思った、ちょうどその時。 「あーあ、子供たちに取られちゃいましたねー」 気配もなく現れたカカシが、イルカの背後に立ち、そう言った。からかう様な口調なのは、気のせいではない。覆面の下には、人の悪い笑みを浮かんでいるに違いなかった。カカシは時々、イルカをこんな風にからかってみせる。慌てる姿が面白いのだそうだ。 「ま、当たり前ですよ」 一文字の傷を指で引っかきながら、イルカは続ける。 「あいつはオレの自慢の生徒ですから」 「かっこいいなあ……」 「ええ?何言ってんですか」 「いやあ、かっこいいですって。しょんぼりするかなーと思ったのに。オレの自慢の生徒ですから、か。今度、オレも真似していいですか」 「真似って……そんなのいつ使うんですか。機会がないでしょう。おーい、お前らー。授業終わったら早く帰れー」 ええー、と盛大なブーイングを受けながら、イルカは教え子たちを散らしていく。 「イルカ先生、サンキューってばよ!お前ら、また今度なー!」 ナルトは忍らしくもなく、どたばたと慌しくその場を駆けていった。ナルトの後をすかさず追おうとする生徒を次々に確保し、アカデミーの外に追いやる。 「おら、おめーらもナルトに負けず修行しろ!」 こんな言葉、まさか口にする日が来ようとは。いささか感慨深い。ぶーぶーと文句を言いながら帰り路につく生徒は、どの子もイルカの可愛い教え子だ。 みんなみんな、大きく育て。 生徒の背中を残らず見送り、イルカは教員室へと続く廊下を歩き出した。 ※子供の間でナルトは人気者なんじゃないのかなーと思う。木ノ葉丸が懐いているのが、きっと大きい。 2010/10/15
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