下忍時代に着用していた忍服がとうとう身体に合わなくなり、泣く泣く標準服に袖を通したのが、もう二年も前のこと。最初の一ヶ月こそ誰かに会うたびに指を差して笑われたが、今ではそれなりに馴染んできたように思える。額あてをぐっと巻きつけると、もういっぱしの忍びだ。最近は、イルカだってカカシだってヤマトだって、一人前のように扱ってくれる。それが嬉しくて、この頃とんと口にしていない言葉を彼女に言ってみようかと、今朝思った。 「サクラちゃん、デートしよう」 待ち合わせ場所でサクラを見かけるなり、ナルトは朝の挨拶をするかのように、そう言った。答えは待たずとも決まっていて、そんな暇があったら云々と続くのだ。それでも良かった。口にして伝えることに意味がある。今はそれで満足だった。自分の誘いを延々と断り続けるサクラの生真面目さはむしろ好ましい。いつか振り向いてくれればいいと思っている。そして、その「いつか」は極めて近い将来であれば嬉しいが、贅沢は言わない。きっと火影になったら承諾してくれるはず。その思いは、大きな夢へナルトを向かわせる一つの力になっていた。 「え?ああ、うん。別にいいけど」 「ですよねー。じゃあ、また今度……って、え?」 「で、いつ?」 涼しい顔でそう言うと、サクラは手帳を取り出す。そして手にしたそれをパラパラとめくり、今後の予定を確認しはじめた。しかし、待てど暮らせど「いつ」の答えが返ってこない。痺れを切らして顔を上げると、ナルトがこれでもかと呆けた顔で、サクラの顔をじっと凝視していた。予想だにしなかったサクラの返答は、ナルトの脳みその処理能力を完全にオーバーしたらしい。 「ちょっと、いつにするのよ」 「何がですか」 「するんでしょう。デート」 どろん、と煙が立ち上がるのと、ナルトが消えるのは同時だった。 ナルトが再びその場に姿を見せたのは、ヤマトとサイが揃ってからのことだった。任務の打ち合わせをして、その日はそのまま解散となる。それまでの間、ナルトもサクラも今朝の一件について触れることなく、任務用の顔を貫き通した。 帰り道、ヤマトが先に抜け、サイと別れた三叉路で口火を切ったのはサクラだった。 「あんたとデートなんてまっぴらよ。冗談でも言わないで」 いつもと違う冷たい声に、ナルトはぎくりとする。怒らせたこともそうだったが、その性質がいつもと違うことに狼狽した。取り付く島もないほどにサクラを怒らせるのは、初めてのことだった。 「これでいいの?」 そう問いかけるが、ナルトの目は決して見ない。 「いいんだけど、よくない」 「ちょっと何よそれ?あんたいい加減に……」 「オレはっ!」 苛立つサクラの言葉を無理やりに遮ると、ナルトは自らを落ち着かせるために、呼吸を置いた。 「オレはね、サクラちゃんを怒らせたくて、あんなことを言ったんじゃないんだ。この格好も様になってきたし、今ならいけるんじゃないかって、期待もあった。だから言ったんだ、デートしようって。そしたらサクラちゃん、いいよって言ってくれたよね?」 「うん、言った」 「それを聞いたら、どうしたらいいのかわかんなくなった」 「どうするって……すればいいじゃないの。デート」 「それが思い浮かばなかったというか……」 「あんた、断られること前提で誘ってたの?OKするって可能性、一切なし?」 「そう!そう!そうなんですよ!考えたこともなかったんで、つい頭が真っ白に」 勢いよく上下に頭を揺らすナルトに、サクラは呆れた、と呟いた。その言い方は、いつもの聞き慣れたものに戻っていた。 「今度からは、ちゃんとそういうこと考えてから誰かを誘うこと。じゃないと相手に失礼でしょ」 誰かと言われても、サクラちゃん以外誘わないんだけどなぁ、と思いつつ、ここは素直に頭を下げておく。 「すんませんでした」 「はい、よろしい」 サクラは満足そうに頷くと、じゃあねと手を振って自宅へと帰っていく。 「あれ?デートは?」 「するわけないでしょ、バカ」 ※次からどうやって誘っていいのかわかんないの。 2009/07/27
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