秘密兵器



秘密兵器




「ねえねえ、サクラちゃん。この後、ウチ寄ってかない?」
 隠し切れない期待をその瞳に湛えて、ナルトが言った。すぐにでも手を引っ張って、部屋に連れていきそうな勢いだ。しかしナルトは、サクラの了承をちゃんと取る。どんな時でもだ。ナルトのそういう一面を、サクラは好んでいた。だが、それとこれとは別問題。間髪入れずに、こう返す。
「やだ、行かない」
「えー、何でー。だってさぁ、会うの久しぶりだよ?もうちょっとさー、一緒にさー」
「出たでしょ」
「はい?」
「この前行ったとき、出たでしょ」
 真正面を向けていた顔を、左に捻る。眉を寄せて思い悩むナルトが居た。
「うーん……何が?」
「あの虫。黒くてすばしっこい奴」
「ああっ!ゴキ……」
「口に出すな!」
 任務が忙しいと部屋の掃除をおろそかにしてしまう癖はどうにも抜けないらしく、そういう時は決まってあの虫とご対面することになる。ついこの間だって、散乱した服やら空き瓶やらをかき分けて台所に向かえば、あの虫が足元を横切った。もし、あと数ミリ足が前に出ていたら、きっと足の甲を……。そこまで考えたところで、サクラは首を振る。過ぎたことだ。忘れよう。
「でも、もう大丈夫だってば。あのね、こないだカカシ先生に貰ったの。すっげえ効果のある……あれ?名前なんつったっけな」
「カカシ先生ねえ」
 もう、その時点で胡散臭い。任務となればこれ以上なく頼れる上忍であるが、ひとたびそれから離れると、途端に信用できなくなる。
「そうだそうだ、ホウ酸団子だ。あれ、作ってもらった」
「カカシ先生が?ホウ酸団子を?」
「なんかね、前に任務先で知り合ったバアちゃんが、ホウ酸団子作りの名人だったらしくてさ。その作り方、写輪眼でコピったらしいよ」
 あの上忍、一体何を考えているのか。ただでさえ、使いすぎれば身体がついていかなくなるというのに。まったく、無駄な使い方を考えるものだ。しかも、よりにもよってホウ酸団子。元部下としては、情けなくて泣けてくる。
「だから大丈夫!絶対出ないから!」
 なんだかんだとゴネているうちに、ダメかなあ、などと捨てられた子犬のようにしょげかえるものだから、ついつい絆される。どうしてこうも弱いのか。自分自身に呆れながら、サクラは通い慣れた道を歩いていった。
「おじゃまし、」
 扉を開けたまま、サクラは固まった。そして、目の前に広がる光景に絶句する。これはひどい。ひどすぎる。足の踏み場がないというか、歩くたびに服やら雑誌やらの山が崩れそうだ。
「やっぱ帰る」
「待って!ちょい待って!す、すぐに片付けるから!10分……いや、5分待ってってば!」
「5分ね。わかった」
 右手を持ち上げ、腕時計の短針をチェックする。
「よーい、スタート」
 その声を合図に、スピード勝負の奮闘が始まった。





「うし、終わった!タイムは!」
「4分25秒。まあ、上出来かな」
「いよっしゃー!間に合った!」
 無論、掃除機をかける時間などないため、埃が若干気になるが、床面の八割が確認できるのでよしとしよう。多少は見られるようになった。
「忙しいのはわかるけど、毎日ちょっとずつ気をつけてればこんなことにならないんだから。サスケ君を見習いなさいよ。こないだ届け物に行ったんだけどさ、綺麗にしてたわよ?」
「あいつは完璧主義なんだよ。何でも整理整頓されてないと落ち着かねーの。潔癖症ってやつだってば。あいつと一緒に組むと、うるせーのなんのって。やれ巻物はちゃんと整理しとけだの、」
「ナルトっ!後ろっ!」
「へ?」
「うわっ!飛んだ!」
 サクラの叫び声をよそに、そこは腐っても忍。咄嗟に攻撃をかわすと、ナルトはホルスターから手裏剣を取り出す。
「部屋の中で物騒なもの使うんじゃない!」
「いってえ!」
 拳骨を食らって、しぶしぶ手裏剣をホルスターに戻す。そして、近くに転がっていた雑誌を得物にすると、いざ退治へ奮闘しはじめた。たかだか虫一匹をしとめるのに、要した時間は三十分。その日は話すどころか、なんとも形容しがたい疲労感に襲われ、すぐに寝てしまった。何のために部屋へ行ったのか、全くわからない。
 その後、サクラが自身の研究室にて、ホウ酸団子の作り方に情熱を注ぐことになったのは、言うまでもない。






※アニメでナルサク大プッシュ。嬉しい。なんだあのカワイコちゃんズは。しかも春野さん、ナルトをわざわざ起こしに行くって、どこの幼馴染設定ですか!ああもうかわいいすきすぎる。



2008/05/15