チーム負け犬



チーム負け犬




「で、まあ、今回こうして集まったわけですが、」
 そこで言葉を区切ると、テンテンは真向かいに座るキバといのを見る。この部屋に入ったときから見せている膨れ面は、二人とも全く崩れることがない。お互いそっぽを向いて、頬杖をついている。二人の様子を事前に聞いてはいたが、こうも険悪だとは。テンテンはファイルを机の上に放ると、椅子の背に凭れて腕を組む。
「一応聞いておくか……。二人とも、何か不満でもあるわけ?」
「なんつーの?こんな寄せ集めのチームでどうにかなるんすかねえ」
「こいつの意見に賛同するのは癪ですけど、私も同感です。言っちゃあなんですが、負け癖のついてる男と組まされて、大事な中忍試験を棒に振る気はないですから」
「そりゃなんだ、オレへのあてつけか」
「他に誰が居るってのよ。何がイヤって、あんたと組むのが一番イヤ」
「てんめぇ……黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!」
「ちょっとー!あんまり近づかないでよ!ケモノ臭がうつるでしょー!」
「あーわかった。わかったから、二人ともちょっと黙んなさい」
 パン、とひとつ手を打って、テンテンはその場を収める。
 ガイ班、紅班、アスマ班は、中忍昇格試験を受けるにあたって、いずれも定員割れとなっていた。そこで、担当上忍の三人が顔をつき合わせて話し合ったところ、ちょうど三人余っているのだから、一緒に組ませてチームにしてしまおうと結論が出たらしい。ガイの口からそれを聞かされたのが、三日前のこと。チームのまとめ役として抜擢されたテンテンは悩みに悩んだが、結局、やるしかないと腹を括った。
「言っておくけどこれ、妥当な線だと思うわよ?感知タイプに偵察要員でしょ、私は距離関係なく狙えるタイプだし。第一、好き嫌いだけで組めるんなら、誰も苦労しないわよ」
 二人は、ぐっと喉を詰まらせる。それを言われると、黙るしかないのだろう。他ならぬ上忍の決定なのだから、この場合、基本的に拒否権はない。
「ま、寄せ集めでも負け犬でもなんでもいいけどさ、上の命令には黙って従う。オーケイ?」
 負け犬とまでは、誰も言ってない。
 胸中でそう思うキバといのだが、反論の言葉は終ぞ見つからなかった。
「あの、ひとつだけ条件つけてもいいですか」
「どうぞどうぞ」
「心転身を使った場合、空いた身体任せるのは、テンテンさんのみでお願いします。このバカには指一本触れさせない覚悟で、ひとつ」
「お前、そりゃどういう意味だよ」
「言った通りの意味よ。野獣相手に身を任せるなんて、そんな恐ろしいこと……!」
 いのは、顔を顰めて両腕をさする。その仕草を見るなり、キバは勢いよく椅子から立ち上がった。
「誰が野獣だよ!大体だな、オレにも選ぶ権利というものがある!」
「野獣に権利なんてありませーん。あるのは本能だけでーす」
「ハイハイ、心転身を使う時、介抱は私が担当すんのね。他に何かある?」
 たったそれだけのことを決めるのに、どうして揉めなければならないのか。この分だと、放っておけば朝まで喧嘩を続けそうな勢いだ。喧嘩するほど何とやら、ならば問題ないのだが、本気で相性が悪いのなら何らかの対策を練る必要がある。二次試験は、間違いなくチームの総力戦だ。なんとしても、本戦まで勝ち残らねばなるまい。
「おー、本能上等だね。どっちにしたって、お前は願い下げだ」
「なんですってぇ!この犬バカがぁ!」
「犬バカ!くっそう、赤丸!あの失礼な女に、ダイナミックマーキングをお見舞いしてやれ!」
「あーもう!うるっさい!他に何かあるかって聞いてんでしょーが!」
 喚くキバの横っ面めがけて、テンテンはファイルをぶん投げる。
「いってえ!なんでオレだけなんすかぁ!」
 この程度のことで声を荒げるのだから、こらえ性がない。自分はおそらく、アカデミーの教師にはなれない性質だ。その適正がわかっただけでも、儲けものなのだろうか。
 ともあれ、チーム負け犬は、前途多難ながらもこうして始動した。






※宗家ヒナタと分家ネジの事情をそれぞれ知っている二人を書いてみようと思い、組ませてみた。この次が、キバとテン助の話になります。空白の二年半は、捏造天国です。想像するのは自由だもんね!なお、いのちゃんを入れたのは当方の趣味です。キバといのちゃんは、喧嘩友達を希望。きっと、仲がいいんだぜ!



2008/04/17