否定行脚



否定行脚




 恩師の見舞いに行くのだから、花のひとつでも買っていこう。ナルトとサクラはそう思い立ち、病院に行く道すがら、やまなか花店に顔を出すことにした。今日の店番は、旧友の山中いのらしい。任務が入ってない時、いのは今でも実家の稼業を手伝っているのだ。
「二人揃って珍しいわね。何、もしかしてデート?」
「あ、やっぱりわかっちゃう?」
 そう言うなり、始終にやけっぱなしのナルトの顔が、さらにだらしなく緩まった。
「んなわけないでしょ」
「サクラちゃーん、そんな全力で否定しなくてもいいじゃん。端から見ればデート中に見えるってことだしさあ。もうね、デートでいいと思うよ!だってそう見えんだもん!」
 サクラはいのの問いかけをきっぱりと否定するが、ナルトは怯むことなくデートなのだと主張を新たにする。そんなことを、今日だけで何回繰り返しているか。数えるのも億劫だ。
 待ち合わせ場所の甘栗甘にて、ナルトはサクラの顔を見るなり開口一番「これってデートだよね?」と確認をしてきた。それはいつものことだとしても、その後、街中で知った顔に出くわすたび、示し合わせたように「二人揃ってデート?」と声を掛けられるのだ。そのたびにサクラは「違います」と否定をするのだが、ナルトの頬は緩まる一方であり、このまま顔が溶けるんじゃないかとさえ思う。
「あんたがへらへら笑ってるからいけないんでしょーが」
「だってさあ、二人っきりで歩くのって、久しぶりじゃーん。今日はサイの野郎もいないし、サクラちゃん独り占め!やべえ……なんかオレ、緊張してきた……」
「じゃあこのまま帰る?過度な緊張は心臓に悪いわよ」
「えー、冷たぁい。刺激が欲しいお年頃なわけですよ。やっぱりこのまま病院行かずにデート……あ、はい。ごめんなさい」
 睨みを利かせると、ようやくナルトはその口を閉ざす。思えば、ナルトの態度が原因の大半なのだ。顔に出すなとまでは言わないが、少しは黙ってくれれば、こうも茶化されなくて済むのに。サクラは、そっと息を吐く。
「ところでお二人さん。見せつけたいだけなら、さっさとお帰り願えるかしら」
「だーから違うっての!花を買いにきたのよ!」
「そうそう、見舞い用の花束を買いにきたんだってば。でもまあ、カカシ先生には、もうしばらく入院しててもらおうかな。二人っきりの時間が増えるしね!となると、この鉢植えでも……いっでえ!」
 どこまでもおめでたい金色の頭めがけて、サクラは手刀を振りおろす。
「不謹慎。えーとね、花屋さんにお任せするから、適当に花束作ってくれる?」
「はいはい、ちょっと待っててね」
 適当に、と言ってしまうあたり、サクラも相当酷い。カカシが聞いたらさぞや悲しむことだろう。
「オレも、帰りに何か買ってこうかな……」
「相変わらず、植物育てんの好きなのね。そうだ、帰郷祝いに何か買ったげようか?」
「え!マジで!」
 ますますデートっぽい!と続けたい気持ちをぐっと堪えて、ナルトは何がいいかと子供のように顔を輝かせる。そんなナルトの様子を眺めるサクラの視線は、先ほどとは変わって穏やかだ。
「やっぱり、まんざらでもないんじゃないの」
 あれやこれやと楽しげに花を選んでいる二人の姿を見ながら、いのはそう呟く。花束はもうできているのだが、声を掛けるのはもう少し待った方がいいようだ。その間、今日入っている注文を確認しておこう。いのは、サンダルをパタパタと鳴らせて、店の奥へと引っ込んでいった。





「カカシ先生によろしくねー」
 いのの声に、サクラは了解の意味もこめて手を振る。
「あんた、しばらく黙ってなさいね」
「え、なんで?」
「あんたが調子こいてべらべら喋るから、誰かに誤解されるんでしょ」
「うーん、いつまで黙ってりゃいいの?」
「病室につくまで、ずっと」
「ええっ!それは酷くない!?オレってば、サクラちゃんと何を話すか考えてきてるのに!昨日の夜のシミュレーションが台無しだってばよ!」
 しょげかえるナルトだが、言葉では勝てないとわかっているのだろう、それを機にじっと押し黙る。
 定食屋が並ぶ街道は、昼の休憩に出ている忍で溢れていた。耳に入ってくる雑談の声さえ、心地よい。少し前までの慌しい日々が嘘のようだ。歩きながら、視線をちらりと後ろに向ける。もしかして、怒ったかしら。そんな考えが片隅を過ぎったが、視界に入ってきたのは、やっぱりどこか楽しそうなナルトの顔だった。
 ナルトとの会話が苦痛なわけではない。むしろ、その逆だ。黙ってなさい、というのはやはり言いすぎたか。確かに、このところ落ち着いて話をする機会なんてなかったのだ。帰郷してすぐに鈴取り合戦がはじまったし、その後はずっと任務続き。なんだか、無性に声が聞きたくなった。
「ねえ、」
「お、ナルトじゃねえか」
 サクラが声を発するのと同時に、真向かいから聞き慣れた声が降ってくる。見れば、キバが赤丸をつれて歩いていた。サクラの存在に気づくなり、キバはにやりと顔を緩ませる。嫌な予感がした。
「なんだよ、サクラも一緒か。お前らデート?お熱いこったねえ」
「ほらあ!オレが黙っててもそう見えるんじゃん!もうこれ、デートに決定!」
「キバッ!あんたはタイミングが悪いのよ!」
「ええっ!?オレかよ!」
 カカシの病室に到着するまでの間、否定行脚は延々と続いた。






※春野さんのこと大好きなナルトって、強烈に可愛いよね。無邪気な大好きオーラをあれだけ浴びながら、よくもまあ冷静でいられるものですよ。やっぱり春野さん最強。ナルサクはいいなあ。ほわあ、となごむ。



2008/04/10