理想の上司の見つけ方



理想の上司の見つけ方




 風の国の使者として砂と木ノ葉を往復する生活にも、大分慣れた。
 最初のうちこそ、自分が一国の代表なのだと気負う部分が大きかったが、力を入れすぎると逆に身動きが取れなくなる。それを理解してからは、気疲れをすることもなくなった。この里の持つのんびり気質なところにじれったさを感じないこともないが、一旦流れに身を任せてみると、案外心地良いのだから不思議だ。砂の里と比べて、ゆっくりと時間が流れているように思える。
 一仕事終えた後は、行きつけの茶屋で団子をニ本。それが習慣となっていた。暖簾をくぐり、馴染みの店員に挨拶をしながらいつもの席へ。その途中、奥のテーブルから声を掛けられた。
「あれ?テマリさん?」
「あ、ほんとだ」
 声のする方角へ目をやれば、サクラといのがテマリを呼んでいる。その向かいでは、テンテンが静かにお茶を飲んでいた。この顔ぶれが揃うのは、珍しい。テマリはそのまま奥へと進み、三人の元へ寄っていく。
「どーも、お一人ですか」
「まあな。そっちは茶屋で一休みか?」
 店内で立ち話というのも何だか妙だ。四人掛けのテーブルは、都合よく一席空いている。テマリはひとまずそこに腰を下ろすことにした。
「一休みというか、愚痴合戦ですね。うちの里の上忍は癖が強くて困るなあ、という話をしていたわけですよ」
 いのがうんざりした様子で口を開けば、サクラも大きく頷きながら話を続ける。
「テマリさんも、経験ないですか?向こうから時間指定してきたくせに、三時間待たされたりとか」
「木ノ葉とは何度か任務を同じくしているが、一度もないな」
「じゃあ、砂では?」
「三時間あったら、別の任務が一本こなせる」
 時間を守るなど、基本中の基本。それだけなら子供にもできる。何をまた酔狂な、とテマリは笑い飛ばそうとするが、三人は恐ろしく真面目な顔をしていた。
「じゃあ、食べ物で人を釣るだけ釣っといて、いざ任務となったら『オレ、放任主義だから』なんつって笑って送り出したり」
 それで一度死にかけたんですよねぇ、といのは遠い目をしながら呟いた。あの場でチョウジがキレなかったら、きっと命を取られていただろう。
「監察義務があるだろう。論外だ」
「あるいは、部下に予定を聞いておきながら、スケジューリングの際には一切無視、とか。まあ、うちだけだろうけど、そんなのは」
 任務が詰まっていればいるほど、部下は喜ぶはず。それがガイの持論であり、ネジとテンテンはたびたび被害をこうむっていた。そんなやり方で喜ぶのは、ナルトかリーくらいのものだ。
「そんなこと続けていたら、部下はついてこないだろう。優先順位が違う」
「あの写輪眼、臨時収入が入って嬉しいでショ?とか言って、人の予定も聞かずに任務入れてきましたよ」
「あ、うちもある、それ」
「うちの場合は、臨時収入じゃなくて『自分の限界に挑戦だ!』とか訳わかんないこと言われるわ。知るかっての。忍稼業だし、任務ねじ込まれるのは仕方ないとしてもさ、一言欲しいよね。どうもすみませんでしたーって」
「そうそうそう!そうなんですよ!あの人たち、絶対自分から謝らないの!」
「あーもう、腹立ってきたなあ。あんの熊ヒゲめ!おねーさん、みたらし二本ください」
 その後も、日ごろ抱えた不満が後から後から湧いて出てくる。テマリは聞き役に徹して、三人のぼやきをひとつひとつバッサリと切って捨てていった。話を聞けば聞くほど、「癖が強い」の一言で片付けられる問題ではないように思えてくる。
 テマリは若くして上忍に昇進したため、それなりの苦労は一通り味わっている。手探りで模索する日々が続いたが、今になってようやく自分のやり方がわかってきた。その良し悪しを判断する材料として、この席は非常に有意義だった。なるほど、自分が辿り着いた方法は、それほどブレたものではないらしい。それを確認できたのは、ちょっとした収穫だ。
「もうダメなんじゃないの?木ノ葉の里って」
「砂とは所詮、質が違うのかしらね……」
 いのとサクラは、ガクリと項垂れてお茶を飲む。その様が可愛くて、思わず真向かいの金髪をくしゃりと撫でた。
「なんならお前ら、揃って私の部下になるか?待遇は保証するぞ」
「……テマリさん、男前すぎ!一生ついていきます!」
「もう、木ノ葉に住み着いちゃえばいいんですよ!この里、住み心地だけはいいですよ?食べ物美味しいし、気候は穏やかだし、生活環境は文句なし!」
 ほんの冗談なのだが、これは少々焚きつけすぎたか。目が本気だ。頼みの綱、とテンテンに目を向ければ、笑って手を振っている。
「あらー、私も誘って貰えるの?嬉しいわ。お金の分はきっちり仕事するわよ」
 どうやら、孤立無援らしい。自分で蒔いた種とはいえ、テマリは愕然とする。
「あー、わかったから、少し落ち着け。冗談だ、冗談。大体だな、他里の忍を部下にするわけにはいかないだろう」
「いや、それはわからないですよ。砂と木ノ葉は、強力な繋がりを持つ同盟関係にありますから。里を越えたボーダーレスなチーム編成というのは、十分視野に入るかと。あくまで一例ですが、木ノ葉の医療と砂の傀儡術が手を結べば、他里にとって多大な脅威となり得ます」
「お、サクラったら、いいこと言うじゃなーい。弱い部分を互いに補強しあうってのは、この場合効果的よねー」
「よし、早速ここで編成案練っちゃおう。まだ叩き台だから、適当な裏紙使っちゃえばいいや」
 火影が認めた春野サクラの頭脳を、よもやこんな形で知らされることになるとは。サクラは実に手馴れた様子で、編成案を作りこんでいく。いのに乗せられてテマリもついつい真剣に口を出してしまうのだから、始末が悪い。これではいかんと席を立とうとするが、今度はテンテンに笑って宥められる。抜群のチームワークに舌を巻いた。
 結局、一休みどころか三時間みっちり話し込み、草案が完成してしまった。まさか上に提出はしないだろうが、捨てておくには少々惜しい。今度、奈良に相談をしてみようと心に決めて、テマリは茶屋を後にした。







※テマリ姉さんは木ノ葉女子と仲良くやって欲しい。春野さんなんか、完璧懐いてるよね!萌ゆる。また、話の都合上、ヒナタは入れらんなかったです。紅先生を貶めるなんて、まさかそんな!




2007/02/28