三段飛ばしで駆け上がれ



三段飛ばしで駆け上がれ




 ナルトが里を出てからしばらく経った頃、木ノ葉の隠れ里では、医療忍者の育成が本格的に開始された。これは、綱手がかねてより思案していたことであり、火影に就任した今、ようやく着手できる優先事項だった。綱手が直にとった弟子は春野サクラただ一人だったが、里の中から優秀な忍を募り、医療忍者を大幅に増やす予定だ。
 そんな折、サクラは火影屋敷の一室にて、書類整理を手伝っていた。先に行われた一次試験にて、一定のレベルに達していない忍はふるい落とされている。次の二次試験では、アカデミー時代の成績から現状のスキルまでを幅広く調べ、適性を探ることになっていた。その資料を集めるべく、サクラは修行の合間を縫っては、資料室に篭っていた。
「つくづく凄い量ですよね。書類整理、まだ集めはじめたばかりなのに、もう机の上が埋まっちゃいますよ」
 自薦・他薦を問わず、里の中からは結構な数の忍が、医療忍者への志願をしていた。そのおかげで、用意すべき資料の量も尋常ではない。
「綱手様は嬉しい悲鳴だと仰ってますよ。医療忍者の有益性が、これだけ賛同を得ているということですから」
 シズネは、サクラの横で育成カリキュラムの計画を練っている。ここ最近、ろくに寝ていないはずだ。その集中力には、本当に頭が下がる。
 自分も頑張らなくては。気分を入れ替えると、書類をめくって次の二次選考対象者を確認する。そこには、よく見知った顔写真と、名前が並んでいた。
「これって……」
 何度見ても、間違いない。いのだ。サクラは、ひどく動揺した。
 私、何も聞いてない。
 いのがどんな道を歩もうと、誰かに断りを入れる必要なんてない。強いて言えば血縁者だけだろう。本来、こんなことを思う方がおかしいのだ。頭ではわかっているのだが、感情がついていかない。心のどこかでショックを受けている自分が居る。
「シズネさん、ちょっと休憩取っていいですか?」
「あ、そろそろお昼ですね。朝一からずっと根を詰めてますから、お昼は長めに取ってきてください。私も、少ししたら休憩にしますので」
「ありがとうございます。ちょっと、外に出てきますね」
 いのは、どこに居るだろう。任務は入っていないはずだから、店番をしているかもしれない。あるいは、演習場で修行中だろうか。里の中を闇雲に探すよりは、ある程度ヤマを張って探した方が効率的だ。火影屋敷を出たサクラは、勢いよく駆け出した。




「いらっしゃいませー。ってあれ?サクラじゃなーい。珍しいわね、こんな時間に」
 花のやまなかでは、看板娘が花束を作っていた。いつもながら、手際が良ければセンスもいい。ついつい見惚れそうになるサクラだが、そんな考えを振り切って口を開いた。
「ねえ、いの」
「ん〜?なぁによ、真剣な顔しちゃってさ」
 何から聞けばいいのやら、一瞬迷う。とりあえず、単刀直入に真相のほどを確かめることにした。
「今さ、医療忍者の選抜試験やってるじゃない。で、私ね、シズネさんとこで書類整理してるのよ。二次試験で使う、審査用の。そしたら、あんたの名前があって……」
「え、マジ!?いよっしゃー!一次試験通ったー!」
 ぐっと握りこぶしを突き上げて、いのは歓喜の声をあげた。
「ちょっと、いの!」
「なぁによ、人が喜びに浸っているってのにさ。水差さないでよねー」
「いつから考えてたの?」
「ああ、医療のこと?そりゃ、私ぐらい能力の高い忍なら、スキルアップを目指すのが当然でしょー。この才能を、みすみす燻らせておくのは勿体ないし」
 自分で言うか、と思いながらも、反論はできない。実際いのはアカデミー時代、常に抜群の成績を誇っていた。筆記では負けない自信があるが、実技で勝てた試しは一度もない。先の中忍試験で、ようやく互角に渡り合えるまでになったというのに。
「それに、男ってバカだからさー。放っておけば無茶ばかりで嫌になっちゃうでしょ。だからさ、私が付いてりゃ大丈夫、ぐらいにはなっておきたいんだよね」
 いのは、いつもそうだった。一人で物事を決めて、知らぬうちにそれを完璧にやり遂げてしまう。サクラが一段一段慎重に登っている階段を、いともたやすく駆け抜けてゆくのだ。その背中は、気づけば二歩も三歩も先にある。
「そっか」
「うん、そんだけの話。でも、サクラには悪いことしたと思ってる」
「何が?」
「こういうことって、やっぱ本人の口から聞きたいじゃない?私だったら知っておきたかったなーって」
 いのには、なんでもお見通しらしい。相談とは言わないまでも、試験を受けることぐらい教えて欲しかったというのが本音だ。しかし、ひとりの忍として道を決めた潔さは、やっぱり格好良かった。
 その後、いくつか世間話をして、サクラは花のやまなかを後にした。一般にはまだ未発表である一次試験の合否結果を教えてしまったのは迂闊だったと後悔するのは、昼食をとっている最中のことだった。






※いのちゃんは、春野さんがいつだって「かなわないなあ」と思える存在であって欲しいのです。大好きだ!





2008/02/16