なかよし



なかよし




 図書館へと続く道の途中、前を歩く大きな背中に気づいた。特徴的な服の色と体型から、すぐにチョウジだと知れる。サクラは少し足を速めると、その背中に向けて声を掛けた。
「チョウジ!久しぶりー」
「サクラか。久しぶりだね。これから図書館?」
 のんびりとした物腰で、笑いながらチョウジが言う。チョウジの周りは、いつもゆったりとした時間が流れている。同じ班のせっかちに、チョウジの余裕を分けてやりたい。サクラは常々そう思っていた。
「そうそう。調べものがなかなか終わらなくて」
 次の任務まで時間が出来たので、新しい術を身につけるべく奮闘中だった。文献をひっくり返して調べているのだが、どうにも煮詰まっている。いっそのこと図書館で寝泊りをしたいぐらいだが、風呂にも入らず勉強というのは年頃の女としてどうかと思うところであり。時間を惜しんで図書館へと通っているこの頃だった。
「いのから聞いたわよ。打ち上げでアスマ先生半泣きにさせたんだって?」
「これでも秋道一族だから。食欲がすべての基本です」
「あはは、それはそうかも」
「そうだ、待ってて。いいものあげる」
 チョウジは、腕に抱えた紙袋をごそごそといじる。中に入っているのは、タイヤキだった。焼きたての匂いについついひかれて、気づけば紙袋一杯買っていた。シカマルといのにも食べてもらおうと思って、小分け袋を数枚、あらかじめ中に入れておいたのだ。そのうちの一枚を取り出すと、袋の口を片手で器用に開き、タイヤキを二つ入れる。
「ほい、おすそ分け。たくさん買ったから。頭を使うと甘いもの欲しくなるでしょ?勉強の合間に、どうぞ」
「あ、嬉しい。ていうかそれ、全部自分用?」
「食べられないこともないんだけど、いのに食べ過ぎだって注意されるから」
 弱り顔でそう言うチョウジの顔は、姉に頭の上がらない弟といった様子だ。十班の仲のよさは周囲によく知られたところであり、幼い頃から変わらないその絆が、サクラには眩しく映る。
「さすがに二つは多いなあ」
 根っからの甘党ではあるが、体重計に乗って愕然とするのは自分自身だ。かといって、厚意で貰ったものを返すのは気が引ける。どうしようと思案するサクラの頭に、ひとつの選択肢がぼんやりと浮かんだ。
「そだ、ナルトん家ってさあ、電子レンジあったっけか」
「どうだったかな。冷蔵庫の上に置いてあったような気もするけど。でも、なんで?」
「ん?どうせなら、あったかいのを食べたいじゃない。そっか、ないかもしれないか。じゃあ、冷めないうちに持っていってやるか」
 なるほど、ナルトと一緒に食べるつもりらしい。チョウジはそう察すると、サクラが持つ袋にもう一つタイヤキを入れる。
「ナルトは一つじゃ足りないよ」
 ナルトは、甘いものが好物のはず。アカデミーからの帰り道、一緒におやつを買い食いしたことをふと思い出す。あの頃のナルトとサクラはといえば、完全にナルトのひとり相撲だった。あれだけ邪険にされながら、よく好きでいられるなあ、などとチョウジは密かに思っていたのだ。それが、今はどうだろう。焼きたてのタイヤキを届けてくれるまでになるとは。好きな女の子に存在を認められるというのは、一体どんな気持ちだろうか。うまく想像ができない。きっとナルトは、大変な幸せ者だ。
「じゃあ、勉強頑張って。ナルトによろしく」
「タイヤキ、ありがと。そっちも修行、頑張ってね」
 サクラはナルトの元へ、チョウジはシカマルといのの元へ。
 なかよしだなあ。
 お互いそう思いながら、背中を向けて歩き出す。





※そもそも木ノ葉に電子レンジはあるの?とかそういう疑問はナシの方向でひとつ。あるんじゃなかろうか。どうだろう。



2007/01/15