「あー、寒っ」 「言うほど寒くないでしょ。あんた、ちゃんと長袖着込んでるじゃないの」 待機所で偶然顔を合わせた二人は、夕暮れの道を並んで歩いていた。秋も深まろうという季節、川沿いの並木道はもうじき紅葉に染まることだろう。今度、休暇を合わせて紅葉狩りに出かけるのもいいかもしれない。お互い忙しい身となり、思うように休暇も取れない日々が続いているが、一日ぐらいどうにかなるはずだ。 「でも、寒いってば」 「体温は高い方でしょ」 あれを片付けて、今週中にこれをやっつけて。 頭の中でスケジュールを割っていくと、再来週にはなんとか休暇が取れそうだ。さて、隣の想い人はどうだろう。 「寒いなあ」 声を掛けようとするも、バカのひとつ覚えのように寒い寒いとナルトは繰り返す。いい加減、腹も立とうというものだが、風邪でも引いたのかと一抹の不安がよぎる。木ノ葉ベストも様になってきたこの頃、ナルトの元にもA級任務が舞い込むようになってきたらしい。忍は、身体が資本だ。ここはひとつ具合を診てやろうと、サクラは歩みを止める。 「どしたの、サクラちゃん」 「ちょっと診たげようと思って。大丈夫、すぐ終わるから」 「というかね、えーと」 ナルトは鼻先を擦った後、サクラの目の前で右の手のひらを掲げた。 「右手が寒い」 「あんたさあ、」 「ん?」 首をかしげて、ナルトは心底不思議そうな顔で問いかける。その無邪気さにいつもしてやられるのだ。どうにも憎みきれない。 「素直なのがあんたの取り柄でしょ。手を繋ぎたいなら繋ぎたいって最初から言えばいいじゃない」 「だってさ、正攻法だと相手にしてくれないじゃん。今度から、絡め手で攻めようと思って」 「べっつに減るもんじゃなし、手ぐらい繋いだげるわよ」 人の気配があれば話は別だが、あいにくと見られて困るような人間はいないようだ。とはいえ、周囲に隠し立てするようなことでもなし。堂々としていればいいのだと、同時に思う。どうぞ、とばかりに左手をついと突き出した。 「んじゃ、遠慮なく」 その左手を取ると、軽く握る。 「あんたさあ、」 サクラは重ねられたナルトの右手をじっと眺めると、今度は不満そうに声を出した。 「ん?」 「繋ぐんなら、こうじゃないでしょ。こうでしょ」 サクラはゆるく握った手を払うと、指を絡めて握りなおす。 「あ、ハイ、すんません」 「そういやさ、再来週の土曜日って、時間空けられる?」 「土曜日、か。どうかな。うーん、午前中に片付くだろうから、午後なら空くってばよ」 「じゃ、紅葉狩りに行こう。お弁当作って」 「サクラちゃんが作ってくれんの?」 「他に誰が作るのよ」 「久しぶりだなー、と思って。一緒のチームだった頃は、時々作ってくれたからさ。結構楽しみだったんだよ、オレ」 昔は、他の誰かのために作ったお弁当だった。言ってしまえば、ナルトは単なるおまけ。時は移ろい、想いは変わる。となると、あの時とは味も違うのだろうか? 絡めた指の力を少しだけ強めて、隣を仰ぐ。 「あったかい?」 「あったかい」 2007/12/07
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